脳は絶えず働いています。

体重の約2%の重さにもかかわらず、脳は体内のどの臓器よりも多い約20%のネルギーを使っていると言われており、起きているときはもちろん睡眠中も活動し続けています。

SNSをはじめネットが発達した現代、私たちは日々たくさんの情報を浴びています。それに加え、ストレスで頭を悩ませれば脳にはさらなる負担がかかり、稼働し続けた結果「脳疲労」を起こしてしまうおそれがあります。

疲れたら体を休めるのと同じように、脳も回復させることが大切です。

脳疲労が引き起こす「注意力の倦怠」

鉄アレイを持ちながら怪訝な顔をしている男性
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注意力がなくなるといった「注意力の倦怠」は、正常な判断力の欠如や視野の狭まりなどを引き起こします。その原因は脳の疲労による可能性があります。

注意力の倦怠は、脳が過剰な情報やストレスを受けることによって起こり、注意力の倦怠に陥ると計画性や判断力・決断力といった実行機能を低下させます。そして、実行機能が低下すると生活において様々な影響が出ることがあるのです。

  • 混乱
  • 落ち着きのなさ
  • 忘れやすさ
  • 衝動的
  • 無謀
  • 社交性が欠ける

これらの項目に複数自覚がある場合、もしかするとすでに注意力の倦怠が起きているかもしれません。

注意力の倦怠自体は永久に持続するものではなく、病というわけでもないため治療薬なども存在しません。ですので、脳をしっかり休ませて充電させることが大切です。

集中をやめるとは「刺激の少ない活動をすること」

ネオン輝く中スマホでビデオを見る男性
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最近の研究では、集中をやめることによってリフレッシュ効果が得られることがわかっています。

たとえば、気分転換のためにゲームをしたり絵を描いたりといったように趣味に没頭(集中)する場合、「別のことに意識を向ける」という点では気分転換に有効ですが、没頭しているということは脳が稼働し続けている状態です。言うなれば、これはハードなリフレッシュと言えるでしょう。

一方、自然を感じながら深呼吸をしたり空を眺めたりといったような行為はソフトなリフレッシュとして、脳を休ませることにつながります。その他、自分の気持ちを振り返ったり内観視する余裕があるなど、ハードにはないメリットが挙げられます。

  • ハードなリフレッシュ:刺激の強いアクティビティに集中している状態
  • ソフトなリフレッシュ:刺激の低いアクティビティを行なっている状態

脳を休ませるためには、ハードよりもソフトなリフレッシュの方が効果があると言われています。では、ソフトなリフレッシュとは具体的にどんな方法なのでしょうか?

脳を休ませる(回復させる)ための方法とは?

方法1.自然に触れよう

森の中を散歩する男性
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ソフトなリフレッシュ体験は、注意回復理論の分野でよく研究対象となっています。注意回復理論とは、自然の力で注意力が回復し、より集中できるようになるというものです。

人は、一定期間自然の中で過ごすと前頭葉がリラックスし、注意力の倦怠症状が和らぎます。自然はソフトなリフレッシュを体感するのに最も理想的で、鳥のさえずりや川のせせらぎなど、五感による自然の低刺激が脳をリラックスさせてくれるのです。

ちなみに、リラックスしやすいものとして1/f揺らぎがあります。上記に挙げた川のせせらぎの他、ろうそくの火の揺れや雨音など、一定のようで実は不規則な現象のことを指し、規則的なものと不規則なものがうまく調和した状態が1/f揺らぎです。

また、自然のある場所に出向かなくとも、環境音をはじめとする1/f揺らぎはネット上に存在しているため、検索してネット上で聞くことでも効果が得られます。そういった1/f揺らぎを感じながらゆったりする時間は、きっと有意義な時間となるのではないでしょうか。

方法2.マインドフルネス瞑想を活用しよう

アロマを置いて瞑想する女性
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また、脳の休息にはマインドフルネス瞑想も効果的です。

「今この瞬間に意識を向ける」という意味のマインドフルネス瞑想は、自分自身を俯瞰することで意識のコントロールをするため、集中状態になることを避けることができます。

厳密には「瞑想をすることに脳を使っている」とも捉えられますが、「今脳を使っている」と自覚することで、客観的な視点をもつことができます。そうした客観視が必要以上な脳の活性化を抑えることにつながるのです。

方法3.睡眠の質を高めよう

白いシーツの上で寝ている女性
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脳を休めるのにもっともオーソドックスなのが上質な睡眠を摂ることです。

上質な睡眠とは、主に「寝つきが良い」「ぐっすり眠る」「寝起きがスッキリしている」といったことを指し、睡眠前の行動も影響します。

睡眠にはレム睡眠ノンレム睡眠があり、約90分周期で両者を交互に繰り返しています。夢を見るのは主にレム睡眠中で、その間も脳が活動している状態です。一方のノンレム睡眠は、大脳と体が両方とも完全に休まった状態です。脳疲労の回復にはこの「ノンレム睡眠」がしっかり摂れているかが重要です。

また、睡眠前にスマホやテレビなどを見ることは、上質な睡眠を妨げることにつながります。スマホやテレビなどの液晶画面から放たれるブルーライトは、脳を覚醒させ入眠しづらくなるおそれがあるので注意が必要です。

さらに、上質な睡眠には睡眠時間も重要です。厚生労働省によると、理想の睡眠時間は約7時間と言われており、6時間睡眠や8時間以上の睡眠過多は健康を害するおそれがあるので気をつけましょう。(※適切な睡眠時間は年齢によって変動します)

方法4.イミダゾールペプチドを摂ろう

アミノ酸の分子構造
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冒頭で、脳は体内のエネルギー消費の約20%を占めていると述べましたが、消費したエネルギーを補うためには睡眠だけでなく食事も大切です。

五大栄養素となる炭水化物・タンパク質・ビタミン・ミネラル・脂質をバランスよく摂取するのはもちろん、脳疲労の回復にはイミダゾールペプチドが効果的と言われています。

イミダゾールペプチドとはアミノ酸が結合したペプチドであり、抗酸化作用を発揮します。疲労は、主に活性酸素による酸化ストレスが原因で引き起こされていますが、イミダゾールペプチドは活性酸素が発生しやすい脳や骨格筋で合成され、酸化ストレスを浄化してくれるのです。

空を飛んでいる渡り鳥たち
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ちなみに、渡り鳥が長時間飛べるのは、羽を動かす筋肉である胸肉にイミダゾールペプチドが多く含まれているのが理由です。イミダゾールペプチドが多く含まれている食材としては鶏の胸肉マグロカツオなど魚の赤身なので、食事の際に考慮してみるといいかもしれません。一日200mgずつ摂取するのが目安です。(※ちなみに、イミダペプチド200mgは鶏胸肉100gほどで摂取できると言われています)

自律神経を休ませることも体調改善になる

青く連なっている神経
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最後に、脳疲労を回復させることは体調改善ストレス解消にもつながります。

というのも、仕事をして疲れたという感覚や運動をして疲れたという感覚、はたまたイライラするといった精神的なストレスも、すべての疲れの根本は脳の自律神経の疲れが原因だと考えられているのです。

自律神経が疲弊すると、まず眼窩前頭野(がんかぜんとうや)という場所に「体が疲れている」といった信号が送られます。そうすると、たとえ体が疲れてなくとも体は「疲れている」と勘違いし、私たちは疲労感を感じます。そうやって脳がこれ以上体を動かさないようにさせるのです。このように、体が疲れたと感じているのは錯覚で実は脳が疲れているといったケースは、人間だけでなく動物全般に備わっているいわば防衛本能と言えます。

加えて、働き者の自律神経は老化しやすく、年齢と共にどんどん機能が失われていきます。一度老化してしまった自律神経は元には戻らないため、前出のような対策をとり、しっかり休ませることが大切です。

大きな木のそびえ立つ森を散策する男性
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脳を休ませることは体調改善やストレス解消といったすべての健康維持につながります。疲労を慢性化させないように、こまめにリフレッシュしていけるといいでしょう。

また、最近はスマホアプリで手軽にストレス解消をできるようになりました。AIロボと会話をすることでロボがユーザーを知っていき、ユーザーに最適な情報・アドバイスを提案するといったメンタルヘルスに特化したストレスケアアプリです。安価でできるため、よかったら「AIカウンセリング」も試してみてください。
SELF MIND

Source:

Ackerman, C. E. (2020, September 11). What is Kaplan’s Attention Restoration Theory (ART)? Benefits + Criticisms. PositivePsychology.com. https://positivepsychology.com/attention-restoration-theory/

Basu, A., Duvall, J., & Kaplan, R. (2018). Attention Restoration Theory: Exploring the Role of Soft Fascination and Mental Bandwidth. Environment and Behavior, 51(9-10), 1055-1081. doi: 10.1177/0013916518774400

Kaplan, S., & Berman, M. G. (2010). Directed Attention as a Common Resource for Executive Functioning and Self-Regulation. Perspectives on Psychological Science, 5(1), 43-57. doi: 10.1177/1745691609356784

Ellison, M. A. (2018, March 14). Soft Fascination Allows The Mind To Wander in a Noisy, Urban World. Hiking Research. https://hikingresearch.wordpress.com/2011/06/10/soft-fascination-allows-the-mind-to-wander-in-a-noisy-urban-world/

Heid, M. (2021, June 17). How ‘Soft Fascination’ Helps Restore Your Tired Brain. Elemental. https://elemental.medium.com/how-soft-fascination-helps-restore-your-tired-brain-27669cd0be9d

Jamieson, S. (2019, November 4). Nature Exposure Helps Attention Fatigue – Dr. Susan Jamieson. Dr. Susan Jamieson Integrative Medical Practice. https://www.drsusanjamieson.com/health/attention-fatigue/

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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