睡眠時間が足りない日本人女性

各国の睡眠時間の差の表

これは世界各国の睡眠時間を男女で比較した表です。(図1)

ほとんどの地域で女性のほうが男性よりも睡眠時間が長いことがわかります。各国に比べて睡眠時間が少ない国は日本で、男性より女性のほうが睡眠時間が短いようです。

理由の一つとして、日本では女性が家事や育児、介護を担うという傾向が多く、抱える負担が大きいことが考えられます。また、テレビを見たりイベントに参加したりする日本人女性が多く、睡眠時間が不足しがちとの報告もあります。

赤ちゃんを観ながらパソコンをする女性
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ちなみにスウェーデンでは、男性の収入だけでは家計が回らないことも多く、女性も働かなければならないのが前提になっています。家族において妻が働くのはごく普通のことであり、その分家事や育児を家族で協力する態勢も整っているケースが多いのです。

また、日本で見られるような「仕事で徹夜することを評価する」といった風潮はスウェーデンにはありません。仕事のために徹夜するのはバカバカしいと考える人が多く、そういった価値観の違いが女性の睡眠時間の長さに影響していると考えられます。

6時間睡眠による健康被害とは?

あくびしている男性
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睡眠時間と健康に関しては疫学調査や精神生理学的実験が行われています。

度重なる睡眠不足(睡眠負債)や、社会時刻と睡眠・生理機能等の生物時計の不一致による心身の不調(社会的ジェットラグ)が、日中機能や心身の健康に負の影響を及ぼすことが明らかになっています。

睡眠負債が日中機能に及ぼす影響を調べた有名な実験として、ペンシルバニア大学睡眠・時間生物学研究所の研究があります。それによると、人は4~6時間程度の睡眠を2週間続けると、脳機能は1~2日徹夜をしたときと同じ状態になることがわかっています。

働く人にとって、6時間睡眠やさらに少ない睡眠サイクルで過ごしているケースは多いのではないでしょうか。「若干眠いけど徹夜しているわけでないし、そこそこ寝ている。昼間のパフォーマンスに影響は出ていない」と思う人もきっといるでしょう。

しかし、実はそれは慢性的な睡眠不足の状態下にあり、気づかないうちにパフォーマンスや健康状態が下がっている恐れがあるのです。

理想の睡眠時間は一日7時間

笑顔の老人男性
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アメリカの研究では、睡眠時間が一日7時間の人が最も死亡率が低く長寿であるという結果が出ています。

人は、眠りについたらまず深い眠りのノンレム睡眠に到達します。このノンレム睡眠中に、細胞を修復するホルモンがもっとも多く分泌されます。このホルモンが毛細血管を通って全身に行き渡り、骨や筋肉、肌といった疲れた体を修復するのです。

傷ついた体(細胞)を修復せよという脳からの指令が全身に伝わるのに約3時間、酸素や栄養素などを全身に運び、修復作業をするのに約4時間、これらが理想とされる7時間睡眠の内訳です。

また、睡眠時間は加齢に伴い短くなるというデータもあり、これは歳を取ることで体内時計が変化し、血圧・体温・ホルモンバランスといった睡眠に必要な要素が前倒しになっているためだと言われています。

良い睡眠を摂るための3つの方法

布団で立てヒジをついている男性
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  • 「寝ようと思っているのに寝れない」
  • 「寝溜めするしか睡眠不足解消の手立てがない」


このように思ったことはありませんか?6時間睡眠がベースである人にとって、睡眠不足を解消する手立てがなく困っているというケースも多々あります。

実は、良い睡眠を摂るためには主に3つのコツがあるのです。以下、ご紹介します。

1.平日に20~30分ずつ睡眠時間を多く摂る

マグカップとベッド
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もし休日になると起きられず、平日より2~3時間ほど多く寝てしまうようなら、睡眠を平日に20~30分ずつ割り振るようにするといいでしょう。

睡眠不足を休日にまとめて返済しようとするのではなく、できる限り日々の睡眠時間を確保することで、睡眠負債と社会的ジェットラグを防止することができるのです。

2.毎日同じ時間に起きる

目覚まし時計
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また、休日にたくさん寝てしまうと、かえって体内時計を狂わせてしまうおそれがあります。

休日に睡眠時間を補うのではなく、朝はいつもと同じ時間に起きて太陽の光を浴び、朝食を摂り活動をしてから昼寝をすることで睡眠時間を補うといいでしょう。そうすることで体内時計が作動し、社会的ジェットラグを防ぐことができるのです。

ちなみに、昼寝のタイミングや昼寝時間の長さは「夜にしっかり眠れる程度」を心がけるといいですよ。目覚めの良い昼寝は、気持ちよく活動する手助けとなるはずです。

3.野外で過ごす時間を増やす

現代人の多くは、常に人工照明の下で過ごしています。なので昼間は受光量が足りず、一方で夜は光を浴びすぎているのが現状です。

コロラド大学の研究グループによると、被験者にキャンプをしてもらい、キャンプ中に受けた光の量、睡眠、メラトニン分泌量を測定した結果、普段の生活と比べてキャンプ中は日中と夜の受光量のメリハリが大きく、メラトニン開始時刻・終了時刻が早まって睡眠の時間帯が前進したという報告が出ています。

自然光には、社会的ジェットラグを防いでストレスや疲労を低減させる効果があります。

キャンプによる体内時計の前進効果は夜型タイプの人ほど大きいことも示されており、休日に夜ふかしをして翌日寝坊しやすい人には、キャンプは効果が高いと言えそうです。

一日8時間を越える睡眠は危険

イヤホンをして目を閉じる男性
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ニュージーランドの成人1000名を対象とした調査では、社会的ジェットラグが大きい群ではBMIが増加し、肥満者とメタボリックシンドロームの割合が高いという結果が出ています。加えて、不妊や精神的健康の低下にも影響することがわかっています。

睡眠には、心身を休養させて脳と身体の機能を整える役割があります。特に女性の場合、月経周期やバイオリズムの変化など男性に比べて生体構造が繊細なため、ライフステージによる生体の変化、およびライフスタイルの変化が睡眠に影響を及ぼしやすいと言えるでしょう。

また、6時間睡眠だけでなく、一日8時間以上の睡眠時間を摂っている場合も注意が必要です。

110万人の男女を約6年間追ったアメリカの研究では、8時間以上寝ている人は、死亡リスクが増加することがわかっています。10時間睡眠の人に至っては、7時間睡眠の人に比べて男女ともに約1.5倍死亡リスクが高いという結果が出ており、寝不足と同様寝すぎもよくないと言えます。

睡眠不足や睡眠過多を控え、適切な睡眠時間を確保することは健全な生活を送るうえで必要不可欠です。人間は寝だめや食いだめという行為ができないため、日々の生活リズムを整え、体内時計を正常に動かしていかなくてはなりません。

もし「最近睡眠不足かも」と思ったら、いったん生活を見直してみましょう。ちょっとした意識の変化があなたの健康を守ってくれるはずです。

Source:

駒田 陽子(明治薬科大学リベラルアーツ)
【女性の睡眠とメンタルヘルス女性心身医学】
J Jp Soc Psychosom Obstet Gynecol Vol. 24, No. 3, pp. 275-278,(2020 年 3 月)


三島 和夫
【社会的ジェットラグがもたらす健康リスク】

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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