海に浸かり、水平線を眺める男性
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あなたは、ストレスに対してどれくらい柔軟に対応できますか?

引越しや進学、就職、結婚など、人生には様々な変化が訪れます。時間と共に環境に適応できればストレスを感じることも少ないですが、そういった変化に適応できすにいると、トラウマや精神疾患に陥るケースもあります。

そういった変化に対応するには、ストレスへの耐性を身につけなければなりません。実は、人間の脳は経験によってストレスを対処(回避)し、受け流す仕組みを備えているのです。

ストレスに対する脳の反応は4つ

1.ホメオスタシス(生体恒常性)

脳内の神経回路をイメージ化したもの
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私たちの体は、体温や血圧といった体内環境を常に一定に保っています。この安定した状態を保とうとする機能はホメオスタスシス(生体恒常性)と呼ばれ、健康を維持するうえで重要な役割を担っています。ホメオスタシスは主に3つの機能によって成り立っています。

  • 自律神経   体の働きを調節する
  • 内分泌    ホルモンの分泌をつかさどる
  • 免疫     外部の異物から体を守る

体がストレスを受けたとき、これらがバランスをとりながら健康状態を維持するのです。

しかし、ストレスを受け続けるとホメオスタシスに負担がかかり、この3つの機能がバランスが崩れます。そうなると病気や不調といった健康被害が現れ、心身ともに疲弊してしまうのです。

実はホメオスタシスは成長によっても変化することがわかっており、たとえば思春期の場合、成長ホルモンが大量に分泌されてホメオスタシスのバランスが崩れ、不安定な気持ちになったり体調を崩したりすることがあります。

また、運動をすることで肉体的変化が起こるのと同じように、ホメオスタシスも外的要因や日々の行動・体験などによって変化しやすいと考えられているのです。

2.ニューロプラスティシティ(神経可塑性)

脳内の神経回路が活発に動いているイメージ
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人間は、ストレスを経験することによって体内環境が変わっていきます。

ストレスを感じたとき、脳内ではそれを「ストレス」として受け止めるかどうか、またどうやって向き合うかを判断します。この能力をニューロプラスティシティ(神経可塑性)といい、成長や状況変化に伴い脳神経が新しい環境に適応しようとするのです。

たとえば、交通事故で頭を打ったとしましょう。手術が必要になったものの幸い命に別状はなく、しばらく安静にすることになりました。しかし後遺症で手足を動かせなくなり、治療後にリハビリテーションが始まります。このリハビリこそが、ニューロプラスシティを刺激するのです。

ニューロプラスシティ(神経可塑性)とは、機能的・構造的変化を指します。

  • ・脳内の神経細胞間のシナプス伝達の効率の変化
  • ・シナプス新生
  • ・神経細胞の樹状突起・軸索の側芽伸長

リハビリをすることで、これらの神経可塑性を変化させことができます。リハビリによって残存する神経回路を変化させられれば、失われた機能をある程度取り戻すことができるのです。

3.アロスタシス(動的適応能)

一粒の雫が大きな波の変化を起こす
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アロスタシスとは、外部からのストレス(変化)によって体内環境が崩れないように、安定性を維持する反応です。一見ホメオスタシスと似ていますが、アロスタシスはホメオスタシスを維持し、急性のストレスなどに対して適応していくプロセスという位置付けになっています。

強いストレスがかかると、アドレナリンやコルチゾールなどの脳内分泌物が多くなります。そういった分泌物から体を守り、適応しようとするのがアロスタシスです。

ストレスを受けることによって身体は新しいホメオスタシスの基準値を作り、新たなストレスに対する「備え」をしようとします。一旦新しいホメオスタシスの基準がつくられれば、同じストレスを経験しても対処できるようになります。人は、過去の経験から学ぶ力を体内にも持ち合わせているのです。

4.アロスタティックロード

女性が両手で顔を覆う
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問題は「アロスタティックロード」です。

アロスタティックロードとは、アロスタシスによる機能調整を継続しようとする反応のことで、体に負担がかかりすぎてしまうと発動します。

たとえば、会社に高圧的な上司がいるとします。ちょっとしたことでも怒られて、みんなの前で声を荒げて注意するといった上司のもとで働く場合、社内がピリピリしますし会社にも行きたくなくなりますよね。こういった状況だと、人は身を守るために交感神経が優位な状態になります。そうなるとホルモンの分泌量が増え、ささいなことでも敏感に反応するようになります。

この体の反応自体は正常なものですが(→アロスタシス)、交感神経優位な状態が長く続くと自律神経のバランスを崩し、体調悪化を招くおそれがあります。この「アロスタシスを長く続けようとする反応」がアロスタティックロードなのです。

長期間強いストレスにさらされ続け、ストレスに耐えようとすることで正常な体内機能が逆に体を壊すことにもつながるアロスタティックロード。これを防ぐためには、肉体も精神もしっかりケアして身体への負担を減らすことが大切です。

アロスタティックロードを引き起こす4つのストレスタイプ

考える男性
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アロスタシスがアロスタティックロードとなるには、主に4つのケースが考えられます。

  1. ストレッサー(ストレスの要因)が多数あり、何度も被る
  2. ストレスに適応できない
  3. ストレス状況を割り切れないor引きずってしまう
  4. 脳内分泌物が過剰反応を起こす

このような状況を避けるためには、上手にストレスと向き合っていく方法を学び、実践していかなければなりません。

ストレスの対処には「アクティブリカバリー」

テニスコートで準備する男女
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ストレスとうまく付き合っていくためには「アクティブリカバリー」が効果的と言われています。

アクティブリカバリーとは、主に肉体の疲労回復に行われるリカバリー方法ですが、ストレスの対処にも活用されています。

アクティブリカバリーに決まった定義はなく、一般的には最高心拍数を100%と考えたとき、70%の心拍数を最低30分間キープできる運動が良いとされています。運動はランニングや水泳、ヨガなどなんでも構いません。楽しいと思えるメニューだと脳の筋肉が活発化するため、楽しんで運動することが大切でしょう。

アクティブリカバリーは、ただ休むよりもリラックスした状態が作り出せることがわかっており、運動によって肉体をリカバリーできれば脳のリラックスにもつながります。そうやってリカバリーを続けていくことで、徐々にストレスへの耐性が備わっていくのです。

もし「いきなり運動をしろと言われても難しい」という方は、まずは散歩を日課にしてみましょう。近所を歩いてみたり、寄り道をするだけでもいい運動になるはずです。

散歩に慣れたら、より健康を意識したウォーキングをしてみるとさらに効果が上がります。コツコツと定期的に続けることで、きっとポジティブな効果を実感することができるでしょう。

小さな行動がストレス解消のカギ

ストレッチをしてリラックスしている男性
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いかがでしたか?
脳をはじめ、体内環境はホメオスタシスによって常に安定状態を保とうとします。外部からのストレスによってバランスを崩さないためにも、上記のようなストレス発散法を取り入れることが大切です。

小さな行動で構いません。
毎日を振り返ってみて、ストレスへの対処ができないかどうか探ってみましょう。もしあなたがデスクワークなら、椅子に何時間も座りっぱなしにならないように気をつけた方がよさそうです。1時間に1回は立ち上がり、軽いストレッチをすると効果的ですよ。

そういったこまめなストレス発散が、アロスタティックロードを防ぎ、健康的な生活を送るコツなのではないでしょうか。

Source:

Ganzel, B. L., Morris, P. A., & Wethington, E. (2010). Allostasis and the human brain: Integrating models of stress from the social and life sciences. Psychological Review, 117(1), 134–174. https://doi.org/10.1037/a0017773

McEwen, B. (2005). Stressed or stressed out: What is the difference? Journal of Psychiatry and Neuroscience, 30(5), 315–318. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1197275/

McEwen, B. S., & Gianaros, P. J. (2011). Stress- and Allostasis-Induced Brain Plasticity. Annual Review of Medicine, 62(1), 431–445. https://doi.org/10.1146/annurev-med-052209-100430

Ratey, J. J., & Manning, R. (2021). Go Wild: Free Your Body and Mind from the Afflictions of Civilization by John J. Ratey Richard Manning(2014–06-03). Little, Brown and Company.

上田耕蔵
【関連死・車中死の機序と救護所医療―アロスタシスの視点から
(JIM 665-669, 2005) 2013 年 5 月 24 日、災害医学抄読会

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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