近年、様々な場面でストレスを抱えている人が増え、ストレスが引き起こすうつ病などの精神疾患が大きな問題となっています。そんな中、日々のストレスを手軽に解消できる方法にも注目が集まっています。
特に手軽な方法として一般的に社会に浸透しているのが「カラオケ」です。

最近では様々な種類のカラオケ店が登場しており、レストランのような料理を提供することに特化したカラオケや、インスタグラムなどのSNS用の写真に映えるカラオケルーム、カラオケとボルダリングが同時に楽しめる「ボルカラ」という変わったカラオケ店も人気を集めています。
今やカラオケは、友達や同僚と歌って盛り上がるだけでなく、家族の団らんに使ったり、ストレス解消のために1人で利用したりと、多様なニーズに応える身近なアミューズメントと言えるでしょう。
「カラオケはストレス解消になる」ということは通説として、多くの人がなんとなく信じていることですが、そこに科学的な根拠はあるのでしょうか?
(※2021年3月追記 編集時点では、感染症対策の観点から複数人でのカラオケは推奨されていません)
自律神経を整える効果があるカラオケ

カラオケで歌うことでストレスが緩和されるということは、科学的に証明されています。
唾液中に含まれる「コルチゾール」というホルモンの濃度を調べた実験では、カラオケで好きな歌を3曲歌った後、コルチゾールの濃度が有為に低下したという結果が報告されています。コルチゾールはストレスホルモンとも呼ばれ、人が心身にストレスを感じた時、ストレスからカラダを守るために副腎皮質から分泌されるホルモンです。
この結果は、カラオケで音楽を聴き、また大声を出すことによって自律神経が副交感神経優位に切り替わり、リラックス効果が得られたことが要因として考えられます。また、この実験では気分の変化についても調査され、カラオケで歌った後は「抑うつ」や「緊張」といったネガティブな気分が低下するという結果も出ました。
このような研究の結果から、カラオケがストレス発散につながるという多くの人が信じる通説には、しっかりとした科学的な根拠があるといえそうです。
下手でも気にしない! 表情筋を使おう

人は歌を歌う時、大きく口を開ける必要があるため、顔の周囲にある表情筋を活発に動かすことになります。実はこの「表情筋を動かす」ということにも、メンタルヘルスにおいて好ましい効果があるとされています。
歌うために大きく口を開けた状態は笑顔にも近いといえます。
人は、表情筋を笑顔に近い状態にするだけでネガティブな感情が軽減し、ポジティブな感情が誘発されるという報告があります。また、表情筋を動かすことで血流が改善され、ストレス軽減に繋がるともされています。
つまり、カラオケでストレスを発散する際に大切なことは、歌を上手く歌うことや場を盛り上げることではなく、恥ずかしがらずに思いきり口を開けて、楽しく歌うことだといえるでしょう。
一人カラオケ(=ヒトカラ)もストレス発散に効果的

もともと、友達や同僚とワイワイ楽しむものというイメージが強かったカラオケですが、近年ではストレス発散や歌の練習のために1人でカラオケに行く「ヒトカラ」も一般的になりました。前述したように、音楽を聴き、表情筋を動かして歌うことがストレス発散につながるということは、ヒトカラにもストレス解消の効果があると考えてよいでしょう。
ただ、複数人で行うカラオケと、ヒトカラにおける気分の差を調査した研究では、複数人で行うカラオケの方がポジティブな気分が活性化するという結果が報告されています。ヒトカラが一般的になりつつあるとはいえ、やはり心のどこかで寂しさや周りの人の目を気にしてしまうネガティブな意識が存在しているのかもしれません。

とはいえ、人前で歌うことに緊張を感じたり、上手く歌えなかったらどうしようという不安を感じる人も多いでしょう。せっかくカラオケに行っても楽しめなかったり、逆にストレスを感じることもあるかもしれません。そんな人にとっては、複数人で行うカラオケよりも、ヒトカラのほうが緊張を感じずに、より気軽に楽しめるストレス発散法となり得るでしょう。
また、大人数で行くカラオケでは、どうしても周りの年代や好みに合わせて選曲し、自分が本当に歌いたい歌を歌えない、といった場面もあるかもしれませんが、ヒトカラではその心配もありません。
多くの人がストレスを抱え、手軽に実践できるセルフケアに注目が集まる昨今、ヒトカラもその方法のひとつとして、今後ますます社会に浸透していくのかもしれません。
Source:
荒金英里子、川出富貴子
「音を聴くこと,歌を歌うことによるリラクセーション作用 身体的および心理的変化」(川崎医療福祉学会誌 Vol.19,No.1,2009)
松本じゅん子、多賀谷昭、北山秋雄
「カラオケとヒトカラによる心身への効果」
(信州公衆衛生雑誌 Vol.10, No.1,2015)