最近笑っていますか?

現代人は複雑な人間関係や将来への不安、社会環境など、日々多くのストレスにさらされています。

そんな中、日常の中できわめてありふれた行為である「笑い」が私たちの心とカラダに与える影響について、近年様々な研究が行われ、その効果が報告されています。

笑顔は百薬の長?

木の葉バックに笑う帽子の女性
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まず、笑いが身体的な健康に及ぼす影響として、免疫系への効果があります。

人の体内で1日に約5000個も生み出されるというがん細胞。この、いわば細胞の不良品ともいえるがん細胞を適切に処分する細胞がNK細胞です。笑いにはこのNK細胞を増殖させる効果があると認められているのです。

客が入っている劇場でパフォーマンスする男性
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ある研究では、がん患者を対象に「吉本新喜劇」の鑑賞前後におけるNK細胞の活性度を測定したところ、約7割の患者において活性度の上昇が認められました。

笑いには他にも、リウマチなどの疼痛の緩和や、血糖値の改善の効果も期待されるといいます。

副作用もなく、短時間で全身の様々な疾患に効果を認められる「笑い」は、まさに「百薬の長」といえるのかもしれません。また、笑いという薬は、時間や場所を選ばず手軽に生活に取り入れられるという点も、大きな魅力ではないでしょうか。

笑うことで精神的ストレスホルモンを低下させる

笑顔で抱き合う女性たち
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笑いが精神的なストレスにも有効であることを示す研究も数多くなされています。

楽しい笑いは思考を「無」にし、前頭葉から発せられる精神的ストレスホルモンを低下させる効果があるというのです。

笑顔の男性
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近年の研究では、笑うことによって交感神経の働きが活発となり、その後、リバウンド効果として今度は副交感神経の活動が活発化することがわかっています。笑うことで一時的に自律神経が興奮した状態となることで、その反動として心理的なリラックス効果がもたらされるということです。

思いきり大笑いした後、気持ちが落ち着いたりスッキリしたりするというのは、私たちの生活の中でも実感しやすい効果ではないでしょうか。

ストレスには「支援的ユーモア」を

笑って話している男女3人
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私たちはどんな時に笑顔になるでしょう。

単純に何かを面白いとか楽しいと感じた時は自然と笑顔になりますが、時には自分や人をあざけったり、おとしめたりするために笑うこともあるかもしれません。一口に「笑う」といっても、その動機は様々です。

ストレスケアにおいては、自己や他者を励ましたり、元気づけるために笑顔になること(=支援的ユーモア)が特に有効であると実験によって示されています。

誰かを励ましたり鼓舞するために笑顔になることが、ストレスを緩和し、自分自身を穏やかな気持ちに導いてくれるのです。

作り笑顔にも効果あり

ネオン越しに笑っている女性
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笑うことが心身の健康に効果的とはいえ、精神的に落ち込んでいるときや不安定になっているときに、自然と笑顔になるのはなかなか難しいもの。そんな時は、楽しいという感情が伴わない作り笑顔でもいいんです。

たとえば、ペンを口にくわえ表情筋を笑顔に近い状態にすることで、ネガティブな感情が抑制され、ポジティブな感情が誘発されるという実験結果もあります。

また、作り笑顔でも血流が改善されるという報告があり、意識的に笑顔をイメージして実施することでバーンアウトスケール(=燃え尽き症候群の尺度)が下がり、ストレスが軽減されたという実験結果も存在します。

普通は楽しい気持ちになることが「笑う」という反応に繋がりますが、自然と笑うことができないような精神状態でも、「笑顔」という形を作ることによってポジティブな精神状態に自らを導くことができるということですね。

日々の生活の中で、悲しいことや腹が立つことがあった時こそ、笑顔になることを意識することでストレスを軽減し心の安定を保つことができるかもしれません。

Source:

石原 俊一
「自律神経系に及ぼす自発的笑いの実験的検討」(『人間科学研究』文教大学人間科学部 第 29 号 2007 年)

三宅 優、横山美江
「健康における笑いの効果の文献学的考察」(岡山大学医学部保健学科紀要,17:1-8,2007)

守 秀子
『「笑う門には福来る」 表情フィードバック仮説とその実験的検証』(文化学園長野専門学校 研究紀要 第 5 号 2013)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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