• 「ダイエットのために食べ物をなるべく食べないようにしている…」
  • 「食べ物を食べたら罪悪感を感じてしまう…」
  • 「ストレスを感じたら食べ物を沢山食べてしまう…」

コロナ禍による新しい生活様式への変化で、多くの人は前よりも家にこもりがちな生活になりました。外に出る機会が減り、ダイエットを意識し始めている人も多いのではないでしょうか。

ダイエットのため、まずは食事制限から取り組むケースも少なくありませんが、度を越した食事制限をしてしまうと、摂食障害に発展してしまう恐れがあります。

この記事では、そんな摂食障害の危険性と予防策・治療法について解説します。

摂食障害になってしまう原因

摂食障害とは、文字通り食事をするという行為に何らかの障害を抱えている状態のことを言い、「食べた分だけ吐き出してしまうか、必要以上に食べ物を食べてしまう」過食症と、「極端に食事を取らなくなるか、食事をしても吐き出してしまう」拒食症の二つの症状に分かれます。

過食症の原因:過度なストレスやプレッシャー

わたあめを食べている女性
出展:Unsplash.com

おいしい食事をすることで幸福感を感じる人は多いと思います。

ある大学の研究でも、満足感のある食事をすることで、高い幸福感を得られることが分かっており、食事はメンタルに直接的な影響を与えているとも捉えられます。

過食症は、精神的なストレスを抱えてしまうことが原因で発症するケースが多いです。職場で厳しい叱責を受けたり、受験前に成績が伸び悩んでしまうなど、局所的なストレスを感じると一気に食欲が向上してしまい、異常に食べすぎてしまいます。これは、ストレス発散を食事で行なってしまうことから生じており、食べすぎてしまった自分に罪悪感を感じ、それによるストレスで再び過食に走ってしまうということもあります。

また、無理なダイエットをしたことによるリバウンドも、過食症の原因の一つと考えられます。減量のために極端な食事制限を行うも、途中で挫折してしまい、今まで抑えていた食欲が爆発してしまうのです。上手く自分自身をコントロールできないと、「食事制限→過食→リバウンド→食事制限…」というループに陥り、精神的にも身体的にも大きなダメージを負うことになりかねません。

拒食症の原因:自己嫌悪や痩せたいという願望

米を食べようとしている少女
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拒食症は、自分の体型にネガティブな感情を持ちやすい若い女性がなりやすいのが特徴です。

「痩せていた方が周りの人からよく見られる」という心理的な擦り込みや、「小さい頃に太っていることでからかわれた」などの経験から、太っている自分に強い嫌悪感を感じてしまうことが拒食症の原因と考えられています。

ただ、拒食症の原因は上述したような単純なものではなく、様々な要因が複雑に絡み合って発症しているケースも少なくなく、簡単に治療できるものではありません。自分一人で悩まずに、医療機関や専門家の指導を受けることをおすすめします。

拒食症になると、身体的にもメンタル的にも悪影響があります。身体的な面だと、栄養補給がなされないことから、不眠・体温低下・めまい・身体の乾燥・抜け毛・生理不順といった、あらゆる箇所の異常が生じます。

また、メンタル面だと、ホルモンバランスの崩壊による苛立ちの悪化・集中力や記憶力の低下・「ずっと痩せ続けなければいけない」という脅迫感情からの精神摩耗などが挙げられます。拒食症にメリットはなく、早急に対策を取る必要があります。

摂食障害の予防法

摂食障害は、一度なってしまうと完治するのが難しい病気のため、日常的に予防をしておくことが望ましいです。

過食症も拒食症も、メンタルに負荷がかかることが要因の一つという共通点がありますので、ストレスを溜め込まないような行動を取ることが予防に繋がると考えられます。

予防法1:運動を趣味にする

摂食障害の予防には運動が効果的です。
運動は、拒食症に対して健康的なダイエットとして、過食症に対してはストレス発散の手段としてそれぞれ有効に働きます。

また、運動の種類としては、ウォーキングやランニング、水泳といった自分のペースで取り組めるものが理想的ですが、習慣化できるようであればフットサルや草野球などの複数人で取り組む運動でも問題ありません。

「無理なく、適度に疲労感を感じながら楽しめる」運動かどうかという点を意識しつつ、趣味にできるような運動を見つけてみて下さい。

予防法2:家族と食事を楽しむ

食事を家族で楽しむことは、二つの理由から摂食障害の予防に繋がります。

一つ目は、自分の食べている食事量を他人と比べられるという理由です。摂食障害になってしまう人は、食事量が極端に多いか少ないかのどちらかになりますが、どちらも「自分の食事量が適正なのかが分からない」ことが要因の一つと考えられます。食事を家族と楽しむことで、「自分の食事量は普通と違うのかもしれない」と感じることができますので、摂食障害になることを事前に防ぐことが期待できます。

二つ目は、食事の楽しみ方を変えられるという理由です。
「食べ物を食べることが楽しい」とだけ感じ、極端な食事量になってしまうことが摂食障害の原因に繋がります。食べ物を食べる行為に幸せを感じること自体は問題がないのですが、「誰かと食事を楽しむ」というマインドに変えることで、夢中になって食べ続けるのを防げるでしょう。

予防法3:悩み事はすぐに誰かに話す

摂食障害はメンタルに何らかの負荷がかかることで発症するとも考えられますので、メンタルを一定に保つために、悩み事はすぐ誰かに話すといった「心のガス抜き」が予防に繋がります。家族や友人、職場の同僚や信頼のできる先輩はもちろんですが、知っている人に話しづらい悩み事の場合は、心療内科やカウンセラーに相談するのも手です。

意外と口にするだけで悩みが和らぐこともありますので、取り返しがつかなくなる前に誰かに話すことをおすすめします。また、最近はスマホでメンタルケアができる「AIカウンセリング」にも注目が集まっています。アプリ上のAIロボと会話することでストレスを発散し、ユーザー一人一人に寄り添ったアドバイスやストレス解消法を提案してくれるというものです。

人には話しにくい内容もロボットにならいつでも気兼ねなく相談でき、コストも抑えられるのでおすすめです。→SELF MIND

摂食障害を治すには

もし摂食障害になってしまった場合は、長い目で治療に当たる必要があります。

患者のモチベーションを保ちながら、家族や友人、職場、学校など周囲と連携しながら治療を進めていくことが大切です。密にコミュニケーションを取ることで、患者が「この人となら治していけるかもしれない」と思えるような信頼関係を築き、根気強くサポートをしていくのです。

以下、摂食障害の治療法を3つご紹介します。

治療法1:外来治療

病院の入り口
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摂食障害では外来治療が一般的と言われています。

拒食症の場合は、朝・昼・晩の一日3食の摂取を基本として、段階的に1食の量を増やしていくことが大事です。

拒食症は「食事をすることで肥満になる」というような心理的抵抗が大きく、身近な人の支えが必要不可欠です。患者の不安や思っていることなどを丁寧に聞き、食べても太らない(太っても肥満になることはない)ことを理解してもらうのです。そうやって患者の不安を取り除くことが改善への近道となるのです。

過食症の場合は、認知行動療法が効果的であることがわかっています。

特に、完璧主義者や自己評価の低い人は過食症になりやすく、彼らは体型や体重にこだわりを持つあまり厳格な食事制限を行う傾向にあります。しかし、「食べたい」という欲求からのプレッシャーに耐えきれず、その反動として暴食を起こしてしまうのです。その結果、肥満への恐怖から嘔吐などの排出行動を起こし、それが罪悪感といった低い自己評価を生み出すという負のスパイラルに陥ってしまいます。

これを改善するには、不自然な食事習慣や対人関係の対処の仕方など、ひとつずつ具体的に焦点を当て、患者自身で解決を図るのを援助するという姿勢が望ましいです。両親や保護者、近しい人間の献身的なサポートは必要不可欠でしょう。

治療法2:入院治療

病室に並ぶベッド
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厚生労働省によると、入院治療の適応条件を以下のように挙げています。

・著明な、もしくは急激な体重減少が認められる
・外来治療努力にも関わらず体重増加がない、あるいは、むちゃ食い/嘔吐/下剤乱用が持続している
・重篤な身体合併症(低カリウム血症、心臓異常所見、糖尿病の合併)がある
・重篤な精神疾患の合併を伴っている(うつ病、強迫性障害、境界性人格障害、自傷行為など)※精神科専門施設での入院治療が必要
・治療環境として問題のある家族環境あるいは心理社会的に不適切な環境である

引用:厚生労働省「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」

入院治療に関しては、本人の意思だけではなく、家族とよく話し合って決めることが重要です。

たとえ短い入院期間であったとしても、達成可能な治療目標を決め、全員が納得する形で入院治療を行いましょう。また、患者が家族と離れることで精神的にバランスを崩すおそれもあるので、臨機応変な対応ができるようにしておかなければなりません。

具体的な治療内容としては、栄養状態の改善と心理的な問題を浮き彫りにさせていく認知行動療法的アプローチが一般的です。心理療法の効果が表れるのはある程度の体重回復が必要とされます。

単に患者がたくさん食べて体重を元に戻すということを目標にするのではなく、体重が増えることによって顕在化してくる心理的な葛藤や、日々の行動に対する観察・アドバイスなどを看護師さんなどがチームになって対応することで、退院後の外来治療に生かすのです。

治療法3:薬物治療

手のひらにある薬
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拒食症に対しては現状特効薬はなく、ごく稀に抗精神病薬が処方される程度です。

統合失調症や気分障害といった症状に広く使用されている非定型抗精神病薬(オランザピンなど)は、重度の肥満恐怖を軽減するという報告があります。体重を増やすといった側面がありますが、耐糖能低下には注意が必要です。

また、胃がもたれるような感覚には胃排出能改善薬(ドンペリドン、クエン酸モサプリド、六君子湯など)、便秘には緩下剤などが対症療法的にしようされています。これらは体重が増えることで改善する可能性があります。

自分と向き合って摂食障害を予防しよう

いかがでしたか?
摂食障害は「これをこうしたら治せる」という単純な病気ではなく、一度発症してしまうと完治するのが難しいことから、予防するための行動が重要になります。

この記事で解説したことに取り組んで、体重という数字に捉われることなく、自分らしく生きることに向き合いましょう。

Source:
前川浩子
「女性の摂食障害および「体重や体型へのこだわり」に関する個人差の多面的検討」

岡本美紀,武藤慶子
女子大学生の食事の満足感に与える要因の検討
厚生労働省
「知ることからはじめよう みんなのメンタルヘルス」

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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