休日も仕事のことが頭から離れない日本人

カバンを持って電車に乗っている男性
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社会人にとって、生活に必要なお金を得るための「仕事」は非常に重要なものであり、24時間しかない一日の中で大きな割合を占める社会活動です。多くの人にとって仕事が生活の基盤であり、人によっては仕事での目標がそのまま人生の指標となっていることさえあります。

仕事によって得られるものは、金銭という報酬だけではありません。達成感や自己肯定感、他者や社会とのつながりを得るという意味でも、私たちにとって仕事はとても大切なものです。

しかし、本来は人生を豊かにしてくれるはずの仕事も、度が過ぎると心とカラダの健康に暗い影を落とすことがあるのです。特に日本人は、「欧米人は生きていくために仕事をするが、日本人は仕事をするために生きている」と揶揄されるほど、仕事にのめりこみやすい傾向があるといいます。

プライベートが仕事に圧迫され、休日も仕事に時間を割くというワーカホリックと呼ばれる不健全な状態に陥ってしまわないためには、一体どうすればいいのでしょう。

ワーカホリックとは?

家でパソコンをしている女性
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ワーカホリックとは仕事中毒とも呼ばれ、長時間労働に伴って生じる仕事への中毒的な状態を示す言葉です。一般的に、心身の健康を害する否定的な状態とされますが、一方で「仕事が楽しい」「仕事から多くのものを得る」といった肯定的な側面もあるという意見もあります。

ワーカホリックの定義は専門家の間でも様々ですが、日常的な長時間労働に加え、下記のような状態に当てはまる人は、ワーカホリックの可能性が高いと言えるでしょう。

  • ・休日でも仕事のことが頭から離れない
  • ・自分の健康やプライベートの時間をないがしろにしてまで仕事に打ち込む
  • ・仕事以外のことに興味が持てない

ワーカホリックになりやすい人の特徴として、非常に多くの仕事量を抱え、また仕事に過度なプレッシャーを感じていることが多いとされています。

「次から次へとやるべき仕事が増えていく」「同時にいくつもの仕事を抱えている」といった状況にある人は、ワーカホリックに陥ってしまわないよう注意が必要です。

「楽しくない仕事」が心とカラダを壊していく

パソコン作業をしている手
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ワーカホリックが心身の健康に与える影響について分析した研究では、仕事を楽しめていない人ほど、心身が不健康な状態にあることがわかっています。

楽しいと感じられない業務に長時間従事することで、心身に大きなストレスを受けることになります。また、余暇を楽しんだり、ゆっくり休んだりといったリフレッシュのための時間が削られることで、ストレスは解消されることなく、心とカラダにどんどん蓄積されてしまいます。

果ては、バーンアウト(=燃え尽き症候群)うつ病といった、より重篤な状態となってしまったり、最悪の場合、過労死にも繋がりかねません。

一般的に仕事というのは社会的な責任が伴う大変なものであり、それを個人の努力だけで楽しめるようにするというのは、非常に困難なことでしょう。

仕事のプレッシャーから心身が摩耗し、不健全な状態となってしまう人を1人でも減らすためには、ひとりひとりが仕事に楽しみを見出せるような取り組みを、社会全体で考えていく必要があるのかもしれません。

ただし、仕事を楽しんでいるからといって、過剰な長時間労働が健康にいいというわけではありません。生活の中で仕事に費やす時間の比重が増えれば、当然疲労は蓄積され、健康への被害が出ることもあります。仕事が楽しいかどうかにかかわらず、過度な長時間労働は避けるべきと言えるでしょう。

ワーカホリックから抜け出すための方法とは?

ソファで一人本を読んでいる男性
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ワーカホリックは、過度な長時間労働から引き起こされる状態です。ワーカホリックを生まないためには、個人の仕事量や労働時間が適切かどうか、職場全体で常に考え、見直していく必要があるでしょう。

また、ひとりひとりがワークライフバランス(=仕事と生活の調和)を重視した働き方ができるよう、労働環境について相談しやすい仕組みづくりも重要です。

ワーカホリックから抜け出すためには、仕事とプライベートのオンオフを意識的に切り替えることが重要です。具体的には以下の2点を意識してみてください。

対処法1.仕事以外に熱中できる趣味を見つける

釣りをしている手元
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自分が夢中になれる趣味の時間は、仕事のことを忘れるためには最適といえます。

趣味を充実させるためのお金や時間を捻出するために、仕事を効率よく進め、自然と無駄な長時間労働を避けようという気持ちになれるかもしれません。

対処法2.家族や友人との時間を大切にする

家族3人で夕日を浴びている
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家族や友人、恋人など、仕事と直接関わりのない人とコミュニケーションをとることで、自然と頭を切り替えることができるでしょう。

また、職場以外での人間関係を大切にすることは、退職した後に社会的に孤立することを防ぐという意味でも重要となります。

ワーカホリックを未然に防ぐためには、自分自身の置かれている状況を客観的に把握することが重要となります。

しかし、仕事に追われ、心に余裕がなくなっている時に自分の状態を冷静に把握するのはなかなか難しいもの。そんな時は、あなたのことを心配してくれる家族や友人、職場の上司や同僚の意見に、素直に耳を傾ける姿勢を忘れないようにしましょう。

忙しい仕事に追われながらも「自分は大丈夫」と思い込んでいる時こそ要注意です。すでに自分を見失い、ワーカホリックの入り口に立っているのかもしれません。

仕事だけが人生じゃない

子供を抱えて草原の中を歩いている男性と男の子
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戦後の高度経済成長と、バブル崩壊からの長い不況を経験し、日本では仕事に疲弊し心身の健康を損なう労働者が数多く現れました。

その後、日本は長年にわたって、ワークライフバランスを重視した社会の実現については欧米各国に大きく遅れをとっているとされてきたのです。

そんな中、2007年に「仕事と生活の調和に関する憲章」が策定され、2019年には経済産業省が働き方改革を掲げ、最近では日本でもワークライフバランスを重視した働き方が推し進められています。

  • 「仕事の成功だけが人生の目標」
  • 「身も心も仕事に捧げる」

そんな生き方が是とされた時代は、すでに終わりつつあると言えるでしょう。ひとりひとりが人生の幸福、充実とは何かという命題に本気で向き合い、追い求める時代が始まっているのかもしれません。

Source:

藤本 隆史
「ワーカホリックと心身の健康」(日本労働研究雑誌June 2013 特集●職場のゆううつ)

武石 惠美子
「ワーク・ライフ・バランス実現への課題:国際比較調査からの示唆」(RIETI Policy Discussion Paper Series 10-P-004 2010 年 11 月)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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