「どんなに洗練された大人の中にも、外に出たくてしょうがない小さな子供がいる」

これはディズニーリゾートの創設者、ウォルト・ディズニーの言葉です。

見たことのない場所や初めて見る景色に出会ったとき、ワクワクしたり気分が高揚したりする人は多いのではないでしょうか。

ストレス社会と呼ばれている現代、メンタルヘルスの重要性が高まっていますが、近年行われている研究によると、旅行をすることでストレスが軽減され癒し効果疾病予防健康増進につながる可能性があることがわかっています。

旅行でリフレッシュしたい人は多い

新型コロナウイルスの影響で旅行を控えざるを得ない状況にある中、出かけられずにストレス発散の手段を奪われている人もいるかもしれません。 日々の疲れやストレスから解放という目的で旅行をしたいと思う人もいるでしょう。

基本的に、旅行の目的となることの多い温泉スポーツ活動などは健康にいいと考えられています。

景色のいい温泉に浸かっている男性
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時として、旅行中の天候悪化や予期せぬアクシデント、期待を下回るサービスなどネガティブ要素はあるものの、旅行の醍醐味である日常からの解放、趣味の満喫、自由な活動、非日常の体験など、私たち自身、旅行で得られる体験の多くは心身にとってプラスの影響を与えてくれると信じているのです。

旅行が健康にいいという科学的根拠

では実際、旅行は健康に良いという科学的な根拠はあるのでしょうか?

旅行をすることで起きる体内の変化については、以下のことがわかっています。

クロモグラニンAの上昇

体内のイラスト
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人の唾液を使って、旅行中及びその前後のストレス値を測定し、ストレス低減効果を検証した事例があります。

人の体内では、ストレスを受けると「コルチゾール」というホルモンが分泌され、逆に気分がいいときは「クロモグラニンA」というたんぱく質が分泌されます。

この2つの物質に注目し、 2泊3日の旅行ツアー参加者を対象に調査・検証したところ、旅行前と比べて旅行中はコルチゾールの値が減少し、逆にクロモグラニンAの値は旅行中に飛躍的に上昇しました。特に日ごろからストレス要因の少ない人にとっては大きな効果があり、旅行をすることによって効果的なリフレッシュができたと考えられます。

また、ストレス負荷の大きい人にとってはあまり大きな効果が見られなかったことから、今後は期間や場所、旅行の仕方など改めて検討する余地がありそうです。

旅行によるメリットとは?

メリット1.旅行計画を立てること自体に効果アリ

クロモグラニンAの上昇以外にも旅行のメリットは存在します。

一つは旅行前です。

旅行に行くための計画を練っているときのワクワク感がストレス解消につながると考えられています。旅行先の景色や食事、観光スポット、宿などを調べながらスケジュールを組んで想像を掻き立てて……というように、好奇心や冒険心を抱くことでストレス解消をはかるのです。

計画自体がストレスと感じてしまう場合は、旅行代理店などに依頼し、個人の趣向や興味に合わせて計画を作ってもらうのも手です。また、インターネットで場所や予算、時期などを指定して自分好みのツアーを探すのもアリではないでしょうか。

あらかじめ計画し、未来に楽しみを置くことで、日々の生活にハリが出て仕事や勉強の励みになるというものです。これは旅行に限らず、楽しみと思えるイベントにも同じようなことが言えるでしょう。

メリット2.人生の大きな財産になる

二つ目は経験です。

見知らぬ土地に足を運べば、思いもよらない出来事に遭遇することもきっとあるでしょう。計画通りにいかなかったり、問題が起きたりしたときに、自分で考えて対処し、状況を打開することは自分にとって大きな財産になります。

初めて知ることや人との付き合い方も旅行で得られる財産の一つです。
日常生活がワンパターン化していくと、そのリズムが体に染みつき、視野や価値観が狭くなってしまう恐れがあります。そうなると、固定概念にとらわれてイラつきやフラストレーションを誘発し、結果的にストレスの原因にもなりうるのです。

ネオンを見ている女性の背中
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新しい価値観に触れ、開放感のある時間を満喫することで、日々感じている漠然としたストレスを解消できるかもしれません。

また、今はスマホアプリでメンタルヘルスをケアできる時代です。AIロボと会話しながら心を落ち着かせ、体調や感情を記録することで自身を客観的に見ることができます。旅先でAIロボとお喋りして楽しさを共有できれば、より思い出深い旅行となるのではないでしょうか。
SELF MIND

「ヘルスツーリズム」でストレス解消を

荒野を走るバス
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医学的根拠に基づいて健康回復や維持、増進をはかる目的の観光は「ヘルスツーリズム」または「ウェルネスツーリズム」と呼ばれ、近年、メンタルヘルス向上において効果が期待されています。

多少言い回しの違いはあれど、ヘルスツーリズムは方々で定義されています。

「健康・未病・病気の方、また老人・成人から子供まですべての人々に対し、科学的根拠に基づく健康増進(EBH:Evidence Based Health)を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」もの

NPO法人 日本ヘルスツーリズム振興機構

自然豊かな地域を訪れ、そこにある自然、温泉や身体に優しい料理を味わい、心身ともに癒され、健康を回復・増進・保持するもの

国土交通省 観光庁 観光立国推進基本計画

ウェルネス・ツーリズムとは、人々が自らの健康の維持や向上を意図して行うところの、旅行(journey)と滞在(residence)から生まれるすべての関係と事象の総体をいう

スイス・ベルン大学  ミュラー/カウフマン

このように、ヘルスツーリズムにはメンタル面でのポジティブな影響が期待されています。

世界的に見ても、

  • アクティビティ(登山やハイキング、ピラティスなどを活用したヒーリング)
  • 自然療法 (自然の中で行うマッサージや瞑想など)
  • 食事療法(健康にいいとされる食事、漢方などの摂取)

など、健康維持が目的のツアー参加者は年々増えています。

たくさんの気球を見る親子
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ただ、ヘルスツーリズムがストレス解消やメンタルヘルス向上に効果的かどうかの科学的根拠はまだ証明されておらず、今後さらに研究が重ねられていくことでしょう。

旅行がもたらす健康へのポジティブな効果は、きっと多くの人を笑顔にできるのではないでしょうか。日常生活圏から離れて癒しを求めることは、ストレスの多い現代人にとって欠かせない要素になっていくかもしれませんね。

Source:

大橋昭一(和歌山大学国際観光学研究センター
【ウェルネス・ツーリズムの進展 ―現代ツーリズムの新しい 1 つの動向― 】

牧野 博明、戸田 雅裕、小林 英俊、森本 兼曩
【旅行のストレス低減効果に関する精神神経内分泌学的研究】

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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