あなたは最近、運動をしていますか?

高血圧や肥満などの生活習慣病に運動が効果的であることは知られていますが、うつ病やストレス発散に対しても運動が治療的効果をもつことがわかっています。

運動やスポーツはメンタルヘルスにどのような影響をもたらすのでしょう。

運動を楽しむことで海馬の働きがよくなる

近年、過度のストレスが海馬を萎縮させ、さまざまな精神疾患に関与しているとの報告が上がっています。しかし、自発的な運動によって海馬の神経細胞の増殖を促進させ、抑うつの低減効果があることが動物実験でわかっているのです。

ここで注目したいのが、強制的な運動ではなく自発的な運動のほうが効果的であるという点です。

ある運動教室に通う17名を対象に、週一回1時間の運動を実施したところ、運動教室を楽しいと感じた人の多くがメンタルヘルスの改善傾向にあったという結果が出ています。特に、ヒップホップダンスのカリキュラムに関して高い満足感が示されたのです。

少し頑張れば達成できそうな目標を設定してそれに挑戦するということは、楽しさや喜びをもたらしやすいとされています。ヒップホップダンスの初歩的なステップを用いて、無理のない範囲で頑張れる環境だったということが楽しいと評価された要因と言えそうです。

つまり、報酬や罰によってコントロールされている状態ではなく、興味や関心をもって運動を行うことが重要なのです。

マインドフルネス瞑想が運動に効果的な理由

青空の下走っている女性たちの背中
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  • 「運動には自信がある」
  • 「より効果的なメンタル効果を得たい」

そんな方におすすめなのが、マインドフルネス瞑想を活用した運動です。

「今この瞬間を大切に生きる」というような意味で使われているマインドフルネスですが、「バスケットの神様」こと元NBA選手のマイケル・ジョーダン氏は現役時代、スポーツ心理学者からマインドフルネス瞑想の指導を受けていたと言われています。また、テニス界でもジョコビッチ選手がマインドフルネス瞑想とヨガを取り入れていることを明かしています。

実はストレスからの解放を目的に、アスリートをはじめ自身のパフォーマンスを高めるためにマインドフルネス瞑想を活用する人が増えているのです。

理由1.超集中状態「ゾーン」に入れる

自転車競技をしている選手たち
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スポーツ選手などに多く見られるゾーンという体験。一般的に、ゾーンとは感覚が研ぎ澄まされて雑念や思考、周囲の音などが気にならなくなるほどの超集中状態のことを言います。

ゾーンに入ると、人やボールの動きがゆっくり見えたり、時間が止まっているかのような感覚を抱くこともあると言われています。そのような特殊な状態に入ったとき、多くのスポーツ選手たちは自己ベストの記録を出したりスーパープレーを繰り出すことが多いのです。

スポーツに限らず、勉強や仕事、趣味の時間などでもゾーンに入ることがあります。集中力が極限まで高まり、ベストパフォーマンスを引き出してくれる「ゾーン」の状態。そんな理想的な状態になることができたら最高ではないでしょうか?

実は、トレーニング次第で誰でもゾーンに入ることができるのです。

ゾーンに入るための7ステップ

サッカーの試合中の女性選手たち
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ゾーンに入るためには、まずフローという集中力の高まった状態になる必要があります。フローとは「流れに乗っている」というような意味で、フローの向こう側にある一時的な超集中状態がゾーンです。

フローに入るためには、主に7つのポイントがあります。

  1. 夢や目標を持つ(ワクワクしてプラスのエネルギーを高める)
  2. 好きな気持ちを大事にする(楽しめることや興味のあることに触れて集中力を高める)
  3. 準備をする(集中できる環境を整え、気が散る要素をなくす)
  4. イメージする(準備中、作業中、終わった後の達成感までを細かくイメージ)
  5. 今を意識する(過去の失敗や未来の不安等は考えない)
  6. 自分を信じる(たとえ根拠がなくても、自信をもって行動する)
  7. 時間を決めて追い込む(短時間にあえて多くのタスクを課し、やりきる)

これらを意識し、なるべくフロー状態を保つことでゾーンへ突入しやすくさせるのです。その際に効果を発揮するのがマインドフルネス瞑想です。

マインドフルネス瞑想によって自我をコントロールし、ネガティブな要素を排除することが重要です。そしてポジティブさをまとうことで自身を発奮させ、思考を変えていくことがゾーンに入るためのカギとなるのです。

理由2.水泳やジョギングと組み合わせるとうつ病の改善に効果的

自転車でサイクリングしている女性たち
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また、マインドフルネス瞑想有酸素運動を合わせて行うことで、 脳内の海馬の神経発生を増加させ、うつ病の改善にも効果があることが研究によりわかっています。

有酸素運動とはその名の通り、酸素を使ってする運動のことです。ジョギングや水泳、サイクリングなど時間をかけてエネルギーを使い、体に負荷をかけるのです。マインドフルネス瞑想によって集中力を高め、長時間の有酸素運動をすることでより効果的なメンタルヘルスケアができます。

今まではうつ病の治療といえば向精神薬が主流でしたが、マインドフルネス瞑想と有酸素運動なら深刻な副作用を伴わず、生涯にわたって実践することができます。

ストレス社会と言われている現代、おそらく世の中からストレスという概念がなくなることはないでしょう。健康状態や環境次第でうつ病をはじめとする精神障害になるリスクは誰にでもあり得ます。そうならないためにも、水泳やジョギングで運動しつつ、日頃から自身をケアしていくことが大切です。

運動をするおすすめの時間帯は「夕方から夜」

夕方の公園でジョギングしている男性
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アメリカのうつ病患者99名に対する研究によると、一日1時間の有酸素運動または無酸素運動を週3回、計8週間にわたって行ったところ、うつ状態が改善したという報告があります。

一過性(1日だけ)の運動ではさほど大きな影響はなかったものの、運動習慣のある人たちは深い睡眠である徐波睡眠が多く、睡眠が安定していたのです。

一般的に、眠気は体温が下がり始めるときに強く感じる傾向にあります。運動後の2〜3時間は上昇した体温が下がり、また、夜はメラトニンという睡眠サイクルをコントロールするホルモンの分泌量が増えます。運動と生体リズムが相乗効果を起こすことで眠りやすくなるというわけです。

適度な運動にはジョギングや早足の散歩などがおすすめです。運動ができなくても、ぬるめの湯に浸かるのも効果的です。ただし、あまり激しい運動は交感神経が刺激されて興奮してしまうので逆効果です。また、寝る前の運動も身体的ストレスを与えてしまうので注意が必要です。

うつ病予防やメンタル改善のためにも運動を

水しぶきを上げながら水泳している女性
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WHO(世界保健機関)が行った疾病負荷(DALYs:疾病による生命や生産的生活の消失の合計年数の調査)によると、2004年ではうつ病が第3位を占め、2030年には第1位になると予測されています。

誰もが発症する可能性のあるうつ病ですが、運動は睡眠改善や精神的、肉体的にポジティブな効果があり、心身をケアしていく上で有効な手段と言えます。(図1)

運動によるうつ病予防の図

時代が進み、交通機関の拡充やインターネットの普及など便利な世の中になるにつれて、人とのコミュニケーションも昔ほど足を使わなくなりました。日々の活動も省エネになり、本来備わっている運動能力を発揮する機会も減ってきているのではないでしょうか。

そんな省エネで暮らせる時代だからこそ、日頃から体を動かすことを意識することが大切です。忙しい合間にストレッチをしたり、いつもより少し長めに歩いてみたり、そんな些細な運動の積み重ねがあなたの健康を守ってくれるはずです。

また、今はスマホアプリでメンタルケアができる時代です。アプリ上のAIロボと会話をしながら日々の記録を残し、ストレスを客観的に把握することができます。使い続けることでロボがユーザーを知っていき、より的確なアドバイスを受けることができるのです。

日々の運動を記録しながらロボとの会話で疲れを癒せれば、いいリフレッシュになるかもしれません。ぜひ一度試してみてください。
SELF MIND

Source:

内田直、我如古雅志、塩田耕平、武田典子、楳沢旬、田代小百合、佐藤大介、阿部哲夫
【職場の運動療法うつ病の予防】2011年、第52回日本心身医学会総会ならびに学術講演会(横浜)

吉本好延、野村卓生、明崎禎輝、佐藤厚
【精神疾患患者に対する行動科学を応用した運動療法導入の試み理学療法学 第36巻 第5号 287〜294頁 (2009年)

泉水宏臣、永松俊哉、井原一成、中川正俊
【回復期にある精神疾患患者を対象とした運動療法の試み体力研究(Bulletin of the Physical Fitness Research Institute) No.107, pp. 15~22(Apr., 2009)

雨宮怜、坂入洋右
【スポーツ競技者のアレキシサイミア傾向とバーンアウトに対する抑制因としてのマインドフルネスの役割】スポーツ心理学研究 advpub_2015-1416 早期公開原著論文(Original Article) J-STAGE Advance Published Date:November 30,2015

Citation: Transl Psychiatry (2016) 6, e726; doi:10.1038/tp.2015.225 BL Alderman,RL Olson,CJ Brush and TJ Shors
【ORIGINAL ARTICLE MAP training: combining meditation and aerobic exercise reduces depression and rumination while enhancing synchronized brain activity

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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