人間関係のストレスは、多くの人が頭を悩ませていると言っても過言ではありません。

考え方や価値観の違う人とコミュニケーションを取る中で、意見の違いや誤解、思い込みなどからメンタルヘルスのバランスを崩し、ストレスを抱えてしまうケースがあります。

そういった人間関係のストレスは年齢を問わず多くの人が抱えている悩みではありますが、特に心身ともに子供から大人へと変わっていく大学生などの青年期は、様々なストレスに対して過敏になりやすい時期であるとされています。

高校までとは違う大学での人間関係

教室で授業している風景
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日本では高校を卒業した人の50%以上が大学に進学するとされています。大学は本来学問の場でありながら、多岐にわたる対人関係が発生することから、社会性を学ぶ場としての側面も持っています。家族や高校までの友達と離れて生活する学生も多く、大学で新しい友達ができないと、自分には居場所がないと感じてしまうこともあるかもしれません。

大学の友達と出会ったきっかけを状況と学年ごとに示した図

また、大学での人間関係の構築は、高校までとは大きく異なっているといえます。

高校までは、基本的にクラス単位で学校生活を送るため、クラスメイトとじっくり時間をかけて親交を深めることができます。

しかし、大学では履修する授業も人によってバラバラで、授業外の時間は各々が自由に過ごすことが多くなるため、同じ顔ぶれで長時間を過ごす機会は少なくなってしまいます。

そんな環境の中、積極的に人とコミュニケーションをとることが苦手な人や不慣れな人は、最初の人間関係を構築することに苦労してしまうかもしれません。

「大学の友だちと知り合ったきっかけ」について学生に行ったアンケートによると、1〜4年生までの全学年において「1年生のころの授業」がもっとも多いという結果になりました。また、「入学時のオリエンテーション」なども高い割合を占めており、1年生の時の人間関係が多くの学生にとって4年間を通して重要なものとなっていることがわかります。

会話する男女
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人間関係における大学生の5大ストレス

大学には、年齢や出身地の異なる多様な価値観を持った学生が在籍しています。

これまで培ってきた自分なりの人間関係の築き方がまったく通用しなかったり、思わぬところで自分と他者の違いを突きつけられて打ちのめされることもあるかもしれません。大学生が抱えやすい人間関係の悩みにはどういったものがあるでしょうか?

ストレス1.友達ができない

丘の上で肩を並べて座っている男性たち
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多くの大学では、どこで誰と何をするか、自分の居場所や行動は自分で選択しなければなりません。

高校までのようにクラス分けが発表され、学級会で席順が決まるようなこともありません。どの授業を受講するか、昼食はどこで食べるか、どの部活やサークルに入り、どのくらいの頻度で参加するかなど、自分の意思で決めなければならないことばかりです。

特に入学したての時期は、初対面の人と積極的に関わることができず、なかなか友達ができずに悩んでしまう人も多いのではないでしょうか。

また、大学生などの青年期は自意識が過敏になり、一人で過ごしているのが恥ずかしいと感じやすい時期でもあります。一人でいる自分を見られたくないという心理から、人が集まる場所を避けるようになり、ますます周囲との関係が疎遠になるという悪循環に陥ってしまう場合もあるようです。

改善・克服法

イベントやサークルなどのコミュニティに参加する
自分から人に話しかけて友達を作るのが苦手な人は、できるだけ積極的にサークルなどのコミュニティに参加するようにしましょう。無理に人に話しかけなくても、コミュニティの中で長い時間を過ごすことで、自然と周囲の人と親交を深めることができるでしょう。

「友達はできなくてもいい」と考える
そもそも、大学とは勉学の場です。そういった意味では、友達がひとりもできなくても、大学に通う目的を果たすことは十分に可能です。「友達はできたらラッキー」ぐらいの気持ちで、本来の目的である学業や、自分の将来に役立つ活動に打ち込んでみるのもいいでしょう。

人間関係のストレスを抱え込まないためには、今いる場所の人間関係が全てじゃないと思うことも大切です。いずれにせよ、学校を卒業した後は多くの人が社会に出て、またイチから人間関係を築いていく必要があります。あくまでも数年間で終わる人間関係だと割り切れば、大学での人間関係を多少なりとも気楽なものとして捉えられるかもしれません。

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ストレス2.友達とケンカした

夜に外で向き合って話している男女
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せっかく友達ができて仲の良いグループに属することができたとしても、些細なことがきっかけでトラブルとなり、誰かと喧嘩したり対立してしまうこともあります。

もちろん、人間関係に摩擦が生じたとしても、すぐに仲直りができれば何の問題もありません。お互いの考えを率直にぶつけあうことで理解が深まり、喧嘩をする以前より仲が良くなることもあるでしょう。

しかし、お互いに理解し合えない状況が続くことで、長期間に渡って気まずい思いをしたり、当事者だけでなく周囲の人間関係にまで悪影響を及ぼしてしまう場合もあります。特に、大学のサークルや部活動は学生だけで運営する場合が多く、同じ学生同士でも立場や経験の違いなどから対立やトラブルが発生しやすい環境といえます。小さなコミュニティ内でさらに派閥が生まれることもあり、より人間関係が複雑になる傾向もあるようです。

改善・克服法

人間関係に摩擦が生じた場合、なによりも重要なのは冷静さを失わないことです。
感情的になって物事を客観的に見ることができないと、その状況における最善の解決策を見つけることも難しくなってしまいます。

まずは冷静になって物事を様々な視点から考えてみることが大切です。信頼できる人に相談して助言をもらうことで、客観的な視点を得ることができ、自らの考えの偏りに気づくことができるかもしれません。

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ストレス3.恋愛関係のもつれ

背中を合わせて座っている男女
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大学生は心身ともに成熟し、大人へと変わっていく時期であるため、恋愛行動についても積極的になる傾向にあります。特に入学したばかりのころは、新しい出会いが身の回りに溢れているため、恋愛に積極的になる人が多いようです。それまでは恋愛に消極的だった人も、周囲の開放的な雰囲気につられて、一気に恋愛にのめり込むケースもあるのではないでしょうか。

一方で、そんな環境の中でも恋愛に積極的になれない人は「自分も恋愛をしなくてはならない」「パートナーがいないことが恥ずかしい」といったプレッシャーを感じてしまうこともあるでしょう。

しかし、好きな人ができて交際に発展することができたとしても、その後うまくいかないことは多々あります。身近なコミュニティの中で付き合ったり別れたりを繰り返すことで、恋愛から生まれる嫉妬心虚栄心が露見し、コミュニティの相関関係が収拾がつかないほど複雑になってしまうこともあるようです。

そうなってしまうと、恋愛をしている当事者だけでなく、コミュニティに属する無関係な人々まで居心地の悪い思いをすることになってしまうかもしれません。

改善・克服法

恋愛関係がストレスの原因になっている場合、その具体的な内容は非常にプライベートなものであることが多く、なかなか他人には相談しにくいと感じるかもしれません。勇気を出して他人に相談しても共感してもらえずに、益々悩んでしまうこともあるでしょう。

青年期の恋愛トラブルにおいては、当事者が精神的に幼い部分を残しているからこそ、感情的になって事態が複雑化してしまうことも多いもの。人に相談する前に、まずは自分が冷静になり、状況を客観視して整理することを心がけましょう。

また、努力しても状況が好転しない場合、その恋愛関係を解消してしまうことが、結局のところストレスの軽減にはもっとも効果的な場合が多いと思われます。

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ストレス4.他者への劣等感、コンプレックス

部屋の中から外を見ている男性
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大学生になると、社会的に大人として認められる場面も多く、個人の行動の幅が大きく広がります。

大学時代に初めてアルバイトを経験したり、運転免許をとったり、お酒を飲むことを覚える人も多いでしょう。個人の活動の幅が広がるということは、同じ学生の間でも、経験や社会的立場、あるいは経済状況に大きな差が生まれるということになります。

自分自身の夢や目標を早々に見定め、そこに向けて着々と前進する人がいる一方で、いつまでも目標を見出せずにただ何となく時間を浪費してしまう人もいます。もちろん、どちらが偉いというわけではないのですが、前者に対して後者が劣等感を抱いてしまうのは、無理からぬ心理なのではないでしょうか。

また、青年期は自意識が過敏になる時期であることから、自然と「他者よりも優位に立ちたい」「優れた人間だと思われたい」という心理も生まれやすくなります。

それぞれの性格や外見、経済力、ファッションセンス、交友関係などを比較して、自分の優位性をアピールしようとするいわゆるマウンティングが横行することもあり、そんな環境に対して強いストレスを感じている人も少なくないのではないでしょうか。

改善・克服法

自分よりも優れた人と相対した時、劣等感を感じてしまうのは悪いことではありません。むしろ、自分が理想とする自分に近づくために努力するためには必要不可欠な感情であるといえるでしょう。

ただし、自分の足りない部分ばかりを意識していては、ストレスで心が磨耗してしまうかもしれません。足りない部分だけではなく、自分が優れている点、自信が持てる点を自分の中でしっかり意識するようにしましょう。頭で考えるだけでなく、自分の良いところをノートに書き出したり、日記につけたりすると、自分の長所を見つけることが習慣になるのでオススメです。

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ストレス5.居場所がない、居心地が悪い

みんなの会話を聞いている女性
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上述したように、大学では自分の居場所や行動は自分で選択しなくてはならない場面が多くなります。そんな中で、うまく自分の居場所を見つけられずに悩んでしまう人もいます。

大学では履修の仕方によっては、授業と授業の間に時間があいたり、受講する予定だった授業が急に休講になってしまうことも珍しくありません。そんな時、大学に居場所がないと感じている人は、非常に居心地の悪い時間を過ごすことになってしまいます。

ある研究者によると、自分の居場所を感じるための条件とは「ありのままの自分でいられること」と「自分が役に立っていると感じられること」だそうです。大学でのコミュニティや人との関わりの中で、そういった実感を持てない人は、大学に居場所がないと感じて居心地の悪い思いをしているかもしれません。

改善・克服法

大学生などの青年期は、人間関係をその範囲の広さに重点をおいて評価してしまう傾向にあります。特にSNSが普及して以降は「友達の多さが人生の充実度の指標」といわんばかりの空気感が形成されることも珍しくありません。

しかし、本来人間関係とは、他者と比べて優劣を競うものではなく、自分自身が満足できれば問題ないはずのものです。たとえ一人であっても「この人の前ではありのままでいられる」「この人には必要とされている気がする」と思える相手がいるのなら、それで十分だと考えましょう。

また、自分の居場所を大学に限定する必要もありません。アルバイト先や地元のコミュニティ、家庭など、自分が「ここが私の居場所だ」と感じられる場所をしっかり認識することでストレスが軽減されるのではないでしょうか。

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人間関係とメンタルヘルスにおける「薬」

大学 卒業式 空に舞う帽子
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現代社会で生きている以上、誰もが他者と関わりを持ちながら暮らしていかなければなりません。
自分とは異なる価値観や思想、または立場や目的の違いから周囲の人との関係にストレスが生じることは、どれだけ気をつけていても避けられないことなのかもしれません。

一方で、人間関係はメンタルヘルスにおける何よりのであるともいえます。
ありのままの自分を開示できる友人がいるだけで日々のストレスが和らいだり、悩みを相談できる相手がいるだけで気が楽になるということもあります。その在り方ひとつで、心を摩耗させる毒にも、心を癒す薬にもなる「人間関係」はメンタルヘルスを考える上で非常に重要なテーマであると言えるでしょう。

しかし、人間関係の悩みに明確な解決法はなく、誰もが手探りで答えを探すしかありません。それでも、ほんの少し視点を変えて物事を見たり、新しい考え方を取り入れてみることで、より良い人間関係を築くためのヒントを得ることはできるかもしれません。

Source:

橋本 剛
大学生における対人ストレスイベントと社会的スキル・対人方略の関連」(教育心理学研究 2000,48,94-102)

石本 雄真
青年期の居場所感が心理的適応,学校適応に与える影響」(発達心理学研究 2010,第21巻,第3号,278−286)

谷田川 ルミ(ベネッセ教育総合研究所
大学への適応における友人関係の重要性 -高校までとは異なる人間関係をどのように構築するか-

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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