職場の人間関係

人間関係のストレス、どう対処する?〜職場編〜

人間関係のストレス、どう対処する?〜職場編〜

現代社会において多くの人が抱えるストレスの一つに、人間関係のストレスがあります。
多種多様な価値観や考えを持つ他者と関わらなくてはならない社会生活の中では、ちょっとした意見の相違や立場の違い、あるいは誤解や思い込みなどから様々なストレスが生じ、個人のメンタルに重くのしかかってきます。

近年、職場でのメンタルヘルス対策は多くの国が積極的に取り組むべき課題とされています。 先進国では個人の生活に即した多様な働き方ができるようになりつつある一方、雇用形態の多様化などに伴って職場での待遇の差やパワーバランスはさらに複雑化していると考えられます。

複雑化する職場での人間関係ストレスに対応するためには、どうすればよいのでしょうか。

職場のストレスがもたらすリスク

社会的責任の伴わないプライベートな人間関係から生じるストレスならば、その原因となっている人間関係を解消したり距離をとったりして回避することもできるでしょう。しかし、社会的な責任を伴い、経済的に生活の基盤となる「仕事」で生じるストレスは、多くの人にとって避けようのないものであるため、放置していると「うつ病」や「バーンアウト(燃え尽き症候群)」といった心の病に繋がってしまいます。

現在の日本では、新卒者の約3割が就職後3年以内に離職するということが、厚生労働省の統計によってわかっています。また、若年者の離職理由として最も多いのが「人間関係」であることも、研究によって明らかにされています。

一般的に、企業が新入社員の採用コストを回収するには新入社員のスキルの習熟が必要なため、新入社員の早期離職は企業側に採用コストの損失を残すことになります。また、構成人数の少ない中小企業では、一人の離職が人手不足に直結して労働環境が悪化する可能性もあり、その状況が続くことで社会から「ブラック企業」とみなされるリスクもあります。

また、当然のことながら早期離職は離職者本人にも大きなリスクをもたらします。
仕事のストレスに耐えかねて早期離職を選択する場合、離職者は「忍耐力がない」「自分勝手」とレッテルを貼られ、再就職先の選択肢が狭まってしまう可能性もあります。悪くすると、仕事に対する自信や意欲を失い、ニートや引きこもりとなってしまう場合もあるでしょう。

つまり、職場でのストレスは、企業と労働者双方にとって大きなリスクを伴う深刻な問題といえます。

うつ病やバーンアウト(燃え尽き症候群)の危険性

離職がリスクのある選択とはいえ、ストレスの多い職場で離職せずに耐え続けることもまた、別のリスクをはらんでいます。長期間にわたる過大なストレスは心身に蓄積され、精神疾患に繋がってしまう可能性があります。

代表的な精神疾患として、抑うつ気分や不安が続き、身体的な不調も伴う「うつ病」があります。
職場でのストレスを放置することで、精神的な不調だけではなく、「眠れない」「体がだるい」といった身体的な症状も発症し、結果として外出が難しくなるほどの深刻な状態に陥ってしまう危険もあります。

また、仕事でのストレスから発生する症状として「バーンアウト(燃え尽き症候群)」があります。
以前はバリバリと仕事をしていた人が意欲を失ってしまい、無気力な状態が続くことを言い、うつ病とも深い因果関係にあるとされています。

ストレスからくる精神疾患に対しては、早期のケアが何より重要になります。まずは本人が自分の状態を把握し、病院やクリニックを受診するなど、適切な対処を行うことが大切です。また、精神的に消耗している人は、自らの状態を客観的に判断することが難しくなっている可能性もあります。職場では、上司と部下、同僚らがお互いに目を配り、精神的に消耗している人にいち早く気づくことができる環境づくりが求められます。

職場でのストレス

職場での対人ストレス〜悩み別の対処法〜

業種や職種にもよりますが、職場ではその仕事にかかわる多くの人と接する必要があるため、多岐にわたる人間関係が発生します。年齢や生育環境、雇用形態など様々な背景を持った人々が同じ仕事に携わることで、対立や摩擦が生じることも珍しくはないでしょう。

職場での人間関係をめぐるストレスにはどのようなものがあるでしょう。また、そういったストレスに対処するにはどうすればいいのでしょうか。

①ハラスメント

職場でのストレス原因の代表的なものとして、ハラスメントの問題があります。
ハラスメントは、英語で「嫌がらせ」を表す言葉で、日本では1989年に新語・流行語大賞に選ばれています。その後、ハラスメントという言葉は一過性の流行語では終わらず、現代では様々な種類の「嫌がらせ」や「不快感を与える言動」が〇〇ハラスメントと名付けられ、社会に浸透しています。

代表的な「セクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)」や「パワーハラスメント(社会的立場の優位などを利用して嫌がらせを行う)」に加え、近年では「スメルハラスメント(体臭や香水のにおいなどで相手を不快にする)」や「ヌードルハラスメント(麺類をすする音によって相手を不快にする)」などといった言葉も登場し、ハラスメントは年々多様化・細分化が進んでいるといえるでしょう。

問題は、その多くの事例において加害者側が無自覚で行っているという点です。
ユーモアや親しみを込めた表現、純粋な恋愛感情、相手の成長を思っての言動であっても、相互の信頼関係や被害者側の受け取り方次第でハラスメントとなる場合があり、加害者側は無自覚なまま職場での処罰や法的な訴訟に発展するケースも少なくありません。

〜ストレスへの対処〜
ストレスの原因となっているハラスメントをやめさせる、やめてもらうためには、まず相手に「ハラスメントを行っている」という自覚を持たせることが重要でしょう。とはいえ、職場の上司やこれからも付き合っていかなくてはいけない相手に、面と向かって「やめてください」と言うのは難しいかもしれません。そんな時は、より相手と立場が近い人(意見を言いやすい人)に相談して改善を促してもらうといいでしょう。

また、自分一人で声を上げるのが難しい場合は、自分と近い立場の人に相談し、一人ではなく複数の意見として改善を求めることが効果的でしょう。周囲に頼れる人が誰もいない場合、あるいは周囲に相談しても一向に改善されない場合は、弁護士や行政の窓口に相談することをおススメします。

ハラスメントは当事者の意識や行動によって、解消することのできる問題です。
ハラスメントを受けた際は、無理に自分を納得させようとしたり、我慢する必要はありません。誰もがハラスメントに対して適切な認識を持ち、そういった行為を許さない環境作りをすることが、自分のためだけではなく、さらなる被害者を生まないためにも重要となります。

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②苦手な人がいる

複数の人が長い時間を共に過ごす職場では、特に嫌がらせを受けることはなくても、性格の不一致や考え方の違いから人間関係にストレスを感じることもあるでしょう。苦手な上司や同僚と密接にかかわりながら仕事をしなければならない場合、長期間にわたって大きなストレスを感じることになります。コミュニケーションをとることで関係が良くなり、ストレスが軽減される可能性もありますが、根本的に考え方が合わず、どれだけ歩み寄っても理解し合えない相手というのも、世の中にはいるものです。

また、他者に対して嫌悪感を抱きやすい人は、自己肯定感が低い傾向にあるということが、研究によってわかっています。
つまり、自分に自信がない人ほど、他者のことを嫌悪し批判的にみてしまうということです。裏返せば、自分に対する自信を身につけることで他者に対する嫌悪感を軽減できるかもしれません。自己を肯定し、常に堂々とふるまうことができれば、他者との摩擦が生じても「他人がどうあれ自分は自分」と前向きに考えられるのではないでしょうか。

〜ストレスへの対処〜
人間関係に摩擦が生じた場合、なによりも重要なのは冷静さを失わず、物事を客観的に考えることです。
目の前の状況や自分の感情を俯瞰して見ることで、自らの認知の偏りに気づくことができます。たとえば、仕事でミスをして上司に叱られたとき、「叱られた」という目の前の事実だけにとらわれて感情的になってしまうと、上司に対して「怒り」というストレスの原因になる感情が湧いてくるかもしれません。しかし、冷静になって状況を俯瞰することで「叱られたことで同じミスは二度としないだろう。ありがたいことだ」という風にポジティブに発想を転換することもできるのです。

自らの置かれている状況や感情を客観視するためには、思考を言語化することが有効です。
信頼できる人に相談したり、日記を書いたり、独りごとを言うだけで、漠然とした思考が整理され、物事を客観視しやすくなります。

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ひとりが好き

③職務外の付き合いがわずらわしい

社会に出て仕事を始めると、多くの人が他者とのコミュニケーションの重要さを思い知ることになります。
自分一人のチカラで責任を伴う仕事を完結させられる人は少なく、多くの場合、仕事は他者との協力、連携なくしては成り立ちません。業務に必要な情報交換もそれを行いやすい環境があって初めて円滑に機能するもの。そのため、業務には直接関係がなくとも、お互いに親睦を深めようとする空気が往々にして形成されることになります。会社の飲み会や取引先との会食など、業務時間外や気分が乗らない時にも、仕事のために人と会ったり話したりすることを求められる場面もあります。

しかし近年、特に若者を中心に、必要以上の他者との関わりを避けようとする人が増えています。
上司に飲みに誘われればどんなときでも二つ返事で参加する、などという前時代的な考え方に疑問を持ち、業務外での行動を強制されることに抵抗を感じる人も増えています。

〜ストレスへの対処〜
業務外とはいえ仕事に関わる人との付き合いにストレスを感じている場合、どういった対処が正解かというのは判断が難しいといえるでしょう。
周囲に合わせることなく、自分のやりたいように行動すればストレスが溜まることはないかもしれませんが、コミュニケーション不全に陥り、仕事の効率が悪くなったりトラブルが生じてしまう恐れがあります。
とはいえ、自分の気持ちを押し殺して周囲に合わせてばかりいると、ストレスで心が摩耗していってしまうかもしれません。

重要なのはバランスではないでしょうか。
「飲み会には参加しないけど仕事中は積極的にコミュニケーションをとる」「誘ってくれた相手の気持ちに配慮して、断る際にも最低限のフォローを忘れない」など、自分とは違う考え方や価値観を認め、配慮する姿勢を示すことで周囲もまた、その人の考えや価値観を尊重してくれます。

また、仕事上どうしても避けられない人付き合いにストレスを感じている場合は、そのストレスが心身に蓄積しないようこまめにストレス発散を行いましょう。どれだけ忙しくても、「1日10分だけは必ず趣味の時間を作る」「寝る前に日記を書く習慣を持つ」など、自分に合ったストレスケアの習慣を持っておくことをおススメします。


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職場コミュニケーション

人間関係とメンタルヘルス

現代社会で生きている以上、誰もが他者と関わりを持ちながら暮らしていかなければなりません。
自分とは異なる価値観や思想、または立場や目的の違いから周囲の人との関係にストレスが生じることは、どれだけ気をつけていても避けられないことなのかもしれません。

一方で、人間関係はメンタルヘルスにおける何よりの薬であるともいえます。
ありのままの自分を開示できる友人がいるだけで日々のストレスが和らいだり、悩みを相談できる相手がいるだけで気が楽になるということもあります。その在り方ひとつで、心を摩耗させる毒にも、心を癒す薬にもなる「人間関係」はメンタルヘルスを考える上で非常に重要なテーマであると言えるでしょう。

しかし、人間関係の悩みに明確な解決法はなく、誰もが手探りで答えを探すしかありません。それでも、ほんの少し視点を変えて物事を見たり、新しい考え方を取り入れてみることで、より良い人間関係を築くためのヒントを得ることはできるかもしれません。

Image:Unsplash
Source:
永冨 陽子
職場のハラスメント状況下におけるストレッサーの生起過程」(大阪経大論集 第66巻 第5号・2016年1月)
職場におけるハラスメントとメンタルヘルスの研究動向と課題(大阪経大論集 第66巻 第1号・2015年5月)

安田 雪
若年者の転職意向と職場の人間関係 ―上司と職場 で防ぐ離・転職― 」(Works review : リクルートワークス研究所研究報告)

大塚 泰正,鈴木 綾子,高田 未里
職場のメンタルヘルスに関する最近の動向とストレス対処に注目した職場ストレス対策の実際」(日本労働研究雑誌 No. 558/January 2007)