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マインドフルネスとマインドフルネス瞑想
マインドフルネスとは?
「マインドフルネス」は、
「今ここでの経験に、評価や判断を加えることなく、能動的な注意を向けること」
(Kabat-Zinn 1994)
と定義されており、心理的な過程を指す言葉です。
元は仏教において重要な教えである「常に落ち着いた心の状態」を意味する「サティ」を英訳した言葉とされています。
1979年、アメリカのジョン・カバット・ジンが心理学の理論と組み合わせ、医療行為として体系化したことで、精神医療の分野に広まっていきました。現代では行動療法、認知療法に次ぐ「第三世代の認知行動療法」として、高い効果が実証されています。
具体的な技法としては、後述するマインドフルネス瞑想などのトレーニングによって、抑うつなどのネガティブな思考から距離をとり、語義でもある常に落ち着いた心の状態を目指すものです。

一方で、マインドフルネスという言葉は、仏教の瞑想や精神医療分野の治療法とは別に「今、この瞬間を大切にする」という思想やライフスタイルを指して使われることもあります。
アメリカでは2000年代に入り、東洋の宗教的思想に関心を向ける人が増えたことから、マインドフルネスが大きなムーブメントを巻き起こしました。日本でも2016年ごろからテレビなどのメディアで繰り返し特集が組まれるなど、多くの人の関心を集めています。
マインドフルネス瞑想とは?

マインドフルネス瞑想とは、自らの呼吸や手のひらに乗せたレーズンなど、ごくわずかな刺激に能動的に注意を向ける瞑想のことです。
人は何かを「考えないようにしよう」と思っても頭の中には次々と様々な考えが浮かんできてしまうものです。特に、ストレスの元となるようなネガティブな思考は「考えないようにしよう」とすればするほど頭の中に侵入し、思考を無にすることが難しくなってしまいます。
これは「思考抑制の逆説的効果」と呼ばれる思考のメカニズムであり、これを自らの意志でコントロールすることは非常に困難です。
マインドフルネス瞑想で、自らの呼吸などの些細なものに意識を集中するトレーニングを行うことで、ネガティブな思考を無理に抑えることなく自然と距離をとり、抑うつなどの苦痛を伴う感情からも距離をとることができるとされています。
ここで、一般的なマインドフルネス瞑想の方法を詳しく紹介します。
マインドフルネス瞑想のやり方
1.背筋を伸ばして座り、リラックスする

まずは何より、リラックスした状態で行うことが重要です。
反射的に意識を向けてしまう雑音などのない静かな環境で行うのが良いでしょう。部屋の明るさを調整したり、アロマテラピーなどを利用して、リラックスしやすい空間を作ることも効果的です。
2.軽く目を閉じ、自分の呼吸に意識を集中する

呼吸はあくまでも自然な呼吸を心がけましょう。
無理に息を吐ききったり、深く吸い込んだりする必要はありません。呼吸に意識が集中しづらい場合、レーズン程度の軽いものを手のひらに乗せ、そこに意識を集中するようにするのもよいでしょう。
3.雑念が浮かびそうになったら、呼吸に意識を戻す

無理に「考えないようにしよう」とするのではなく、思考が頭をよぎったらそれに気づき、その都度呼吸に意識を戻すようにします。
これを繰り返すことによって、自然と思考を抑制し、何も考えない状態に自らを導くことができます。
4.まずは3~5分程度を目標に

瞑想の初心者にとって能動的に注意をコントロールすることは思った以上に難しいものです。
始めは無理をせず、3~5分の瞑想を目標とし、慣れてきたら10分、15分と時間を長くしてみましょう。熟練者は、どんな環境であっても目を閉じることもなく、1時間以上瞑想状態に入ることができると言われています。
ネガティブ思考から意識を離すことが大事

マインドフルネス瞑想を実践しようとする中で、呼吸に意識を集中しようとしてもなかなかうまくいかない場合もあります。そんな時、「どうしてこんなこともできないんだろう」とネガティブな思考が頭をよぎることもあるかもしれません。
しかし、そのネガティブな思考にこだわることなく、また無理に抑え込むこともなく、ただ呼吸に意識を戻すことがマインドフルネス瞑想のコツといえるでしょう。
マインドフルネスは、自らの意識を能動的にコントロールするスキルともいえます。このスキルを身につけることで、日々の生活の中でストレスとなるネガティブな思考が生まれた際、自らの意識をネガティブな事柄から離したり、また認知の偏りに気づいて、ポジティブな事柄に意識を向けることができるようになるのです。
雑念を捨て、何も考えないで過ごそう

私たちは、積み重ねた過去と不確定な未来の板挟みになった「今」を生きています。
今を大切にしようとしても、ついつい過去のことで思い悩み、未来への不安で頭がいっぱいになってしまうこともあるでしょう。その結果、目の前にある事柄を事実よりも悪いように捉えてしまったり、本来はポジティブに捉えられる事象をネガティブに捉えてしまうことで、自らの認知に偏りを生み、ストレスを抱え込んでしまうのです。
マインドフルネスは、そんな雑念から自分自身を解き放つことができます。何も考えずにあるがままの今を受け止めて生きていくためには、マインドフルネスは有効な考え方といえるでしょう。
Source:
杉浦 義典
「マインドフルネスにみる情動抑制と心理的治療の研究の新しい方向性」
(感情心理研究,2008年,第16巻,第2号,167-177)