- 「自分の時間が持てない…」
- 「シングルマザー(ファザー)でお金がない…」
- 「職場の理解がない…」
世の中には、一人で子育てをするシングルマザー(シンママ)やシングルファザーがいます。本来は夫婦で協力するはずの子育てを一人でやらなくてはならないのは大変な負担となります。
また、夫婦が一緒にいながら母親だけが育児を一身に背負っている家庭もあります。これは日本の家庭に多く見られ、内閣府の調査では「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」と考えている日本人はおよそ6割いるのに対し、スウェーデンではこういった考え方に約9割の人が否定的であるという結果が出ています。
育児や子育てにおいて頼れる人がおらず、知らぬ間にストレスが溜まってメンタルヘルスのバランスを崩してしまうというケースは多いものです。ここでは、一人で行う育児、通称「ワンオペ育児」の問題点と解決策をシングルマザー(シンママ)の視点で解説します。
目次
ワンオペ育児とは?

ワンオペ育児とは文字通り「ワンオペレーション(1人での作業)」のことで、夫婦どちらかのみが育児を行っている状態と定義付けられます。
現在日本では、家事及び育児の負担が妻に偏っている傾向にあります。内閣府によると、「5歳未満児のいる夫婦の夫の育児時間」は、先進国の中でも日本が圧倒的に少ない0.4時間となっています。
加えて、男性の育児休暇取得率が少ないこともワンオペ育児を加速させている要因です。厚生労働省による平成30年度雇用均等等基本調査では、女性の育児休業取得率が82.2%に対し、男性は6.16%に留まっています。
また、平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告では、死別によりシングルマザー(シンママ)になるのは全体の約1割に留まり、8割は離婚を理由にしていると発表されています。
このように、日本ではワンオペ育児を妻が担うケースが多く、ストレスを溜めやすい状況にあるのです。
ワンオペ育児の3つの問題点

ワンオペ育児では子供につきっきりになるため、成長や変化を逐一把握できるというメリットはあるものの、問題点も多く、悩みが解決せずに途方に暮れてしまうケースが多いです。
では、ワンオペ育児の問題点とは一体どういったものなのでしょうか?
問題点1.金銭的な困窮

ある大学の研究では、「生活が苦しい」と回答した世帯は全世帯で56.5%なのに対し、母子世帯では82.7%と、シングルマザーを含めた母子家庭において高い割合になっています。
加えて、大手転職サイトのdodaで発表されている年代別の平均年収データを見ると、30代男性が484万円なのに対し、30代女性では377万円と、男女で年収に100万円以上の差が生じています。
これは正社員の年収も含むので、時短勤務や非正規社員として働いている場合は上記よりさらに年収が少なくなる場合があります。
子育てには多くのお金がかかります。
衣食住だけでなく、「子どもに十分な教育をさせられない」といった問題もあり、ワンオペ育児(特にシングルマザー)において経済的な問題は大きいと言えます。
問題点2.職場の理解が得られない・職場復帰できない

働きながら子育てをする上で、融通が利いたりフレキシブルに働けたりといった「環境環境」は重要です。
しかし、職場の理解が得られずに早退や休暇といった申請がしづらく、不利な条件で働き続けなければならない状況に陥ってしまうケースがあります。たとえば子供が熱を出した場合、急な休みが取れなければ途方に暮れてしまうでしょう。
なおかつ、そういった状況が繰り返されれば職場に迷惑をかけているという申し訳なさが募り、自ら離職を選ぶことにもつながります。そうなってしまうとさらに生活が困窮するおそれがあります。
また、育休を取得後、子供がある程度の年齢に達し、子育てがひと段落してから職場復帰したいと考えている人も多いでしょう。
事例:ジャパンビジネスラボ事件
職場復帰に関して問題が起きた事例として、2019年に最高裁の判決が出た「ジャパンビジネスラボ事件」があります。
2008年にジャパンビジネスラボに入社したAさんは、2013年に出産し育休を取得しました。1年間の申請でしたが保育園が見つからず、結果的に1年半の育休期間を過ごした彼女は、育休期間の終わる頃に会社と話し合い、週3日勤務の「契約社員」として職場復帰することになりました。
正社員の頃と比べて給料はガクンと下がり、それでも受け入れて働いていたのですが、やがて保育園に空きが出て、出産前同様、週5日勤務の正社員として再雇用してもらいたいと会社に相談しました。
というのも、Aさんが会社から説明を受けた際の書面には「契約社員は、本人が希望する場合は正社員への契約再変更が前提です」とされていて、具体的に「ex.入社時:正社員→(育休)→育休明け:契約社員→(子が就学)→正社員へ再変更」という記載があったので、Aさんは希望すれば正社員に戻れると思っていたのです。
ところが、会社側はAさんが正社員になるには会社の合意が必要とし、上記のように暫定的に契約社員になっただけだというAさんの主張は受け入れてもらえず、2015年に会社側はAさんを雇用止めしたのです。
このように、育休休暇をとったはいいものの、その後の職場復帰や待遇面において息苦しさを感じるケースは少なからず存在します。今回のAさんの場合、会社側からすると正社員に戻せない理由として「2年間のブランク」「他の正社員と同じ条件で働けることが前提」「周囲のバックアップが整っていないと難しい」という点を挙げています。
育休は国が推奨しているとはいえ、休暇自体の待遇や扱いなどはあくまで会社側に委ねられています。育休取得者と会社側での認識の違いによって職場復帰が難しくなっている現状は、今後変えていかなくてはならない課題と言えるでしょう。
問題点3.頼れる人が身近にいない

ワンオペ育児というだけあって、一人で子育てをしているので困った時に人に頼れないのは大きな悩みであり多大なストレスとなります。
専業主婦(主夫)であれば一日の大半を子供と過ごすことになり、社会との関わりが希薄になりやすく孤独を感じてしまうのです。また、仕事をしているシングルマザー(ファザー)にとっては、迷惑をかけているという自覚があるため弱音を吐きづらく、困難を抱え込む傾向にあります。
近隣に親族がいて子供の面倒を見てくれるような環境ならともかく、そうでない場合は託児所やベビーシッターなど外部の業者に子供を預けることもあるかもしれません。しかし経済的に難しかったり、他人に子供を預けるのは心配という人もいるでしょう。そうなると誰の手助けも得られない状況に陥ってしまい、ストレスを抱えメンタルを崩してしまうのです。
日本では、2015年4月から「子ども・子育て支援新制度」がスタートしています。子どもの年齢や親の就労状況などに応じた多様な支援を用意し、必要とするすべての家庭が利用できるという支援です。もし困ったらこういった地域のサポートを受けるのも手です。
ワンオペ育児でストレスを抱えない方法とは?

ワンオペ育児でストレスを抱えないためにもっとも有効なのは、夫(妻)をはじめ、親族やサポート機関などに協力を仰ぐことです。
また、職場での働き方を見直す、あるいはより働きやすい職場環境に身を移すという手もあります。以下、ワンオペ育児でストレスを溜めないためにはどういった解決法があるのかご紹介します。
解決法1.民間の子育て支援サービス

地域ごとに子育てサービスを行なっている団体があります。
例えば東京では、渋谷区の子ども家庭支援センターでは、1時間1,000円で育児支援ヘルパーを派遣してもらう「にこにこママ」という制度があり、子ども版のショートステイなど、育児の一部を代行するサービスを提供しています。
基本的に、地方自治体が提供しているサービスだと比較的安い料金で受けられるものが多いので、経済的なメリットはありそうです。
また、企業が女性の働きやすい就業環境を作るよう「女性活躍推進法」という法律が施行されており、出産・育児を控える女性でも働きやすい職場であるとアピールしている企業もあります。「えるぼし認定」を受けている企業であれば、シンママでも仕事と育児を両立させることができるかもしれません。
解決法2.無料の子育て相談窓口に相談

もし子育てで分からないことがあった場合、気軽に相談できる無料の子育て相談窓口に電話してみましょう。
インターネットで「(自分の住んでいる都道府県)+子育て+電話相談」と検索すると、悩みに応じたフリーダイヤルの番号が出てきます。まずは悩みを話し、一人で抱え込まないようにすることが大切です。
見ず知らずの人に相談するのは抵抗があるという人は、カウンセリングアプリを使うのもおすすめです。スマホアプリ上で、AIロボがユーザーと日々会話しながらユーザーの悩みや傾向を覚えていき、使えば使うほど的確なアドバイスやカウンセリングを受けられるというものです。時間がないという人でも、スキマ時間でメンタルヘルスケアが可能ですので、こういったものを使うのも手です。
→SELF MIND
また、国や地方自治体で設けられている子育て世帯を金銭的に支援する制度を活用し、金銭面の負担を減らすこともできます。
子育て世帯において、誰でも毎月1万円(1〜2人目まで、3人目以降は1万5,000円)が支給される「児童手当」だけでなく、一定要件で支給される各種手当をはじめ、地方自治体によっては家賃補助を設けているところもあります。
家計の負担を減らせるような支援を受け、余裕を少しでも増やすことで、金銭的な面からくるメンタルの落ち込みを減らしましょう。
シンママもシンパパも、子供と一緒に成長していこう
ワンオペ育児については、負担が大きいにもかかわらず解決が難しい問題が多く存在しています。
責任感を持つことは大切ですが、「周りに頼れないから自分が頑張らないと」と責任感を強く持ちすぎてしまうと、心身を壊してしまいかねません。
親である自分が倒れてしまえば、幼い子供を育てる人がいなくなり、結果的に子供に悪影響を及ぼすでしょう。そうならないためにも、日頃からこまめに健康管理をする必要があります。
自分の時間を作ったり、適度にリフレッシュをすることで現状を見つめ直し、親として子供と一緒に成長していけるといいのではないでしょうか。
Source:
加藤望、中坪史典
「なぜ日本の乳幼児子育て期の保護者はリフレッシュ目的で一時預かり事業を利用しにくいのか?」
苫米地 なつ帆
「ワンオペ育児――わかってほしい休めない日常――」
藤田結子(著)2017年,毎日新聞出版,ISBN 978–4–620–32446–3
内閣府
【わが国における子育て意識の特徴】
平山妙子
「シングルマザーの生き方ー社会現状とこれからー」