• 「やると決めたのになかなか実行できない」
  • 「始めても頓挫してしまう」
  • 「やる気が出ない」

そんな経験はありませんか?

日々の生活の中で、人は様々なことを選択し、実行しなければなりません。

よりよい人生を送るために「やらなければならない」「やった方がいい」とわかっていても、行動に移せなかったりうまくいかないという人は、実行機能を高めるといいかもしれません。

やるべきことをやり遂げる「実行機能」

海辺に立つ男性の後ろ姿
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実行機能とは、人が複雑な課題を遂行するうえで必要となる思考や行動を制御する認知システムのことで、簡単にいうとやるべきことをやり遂げる機能のことです。

実行機能が弱い人は、様々な課題に直面してもそれをクリアすることができず、自信や自己肯定感が低減してしまいます。また実行機能の障害は、うつ病や強迫性障害、注意欠陥多動性障害、依存症などといった様々な精神疾患にも関わっているとされています。

これらの精神疾患を予防し、目標をやり遂げられる人になるためには、実行機能の向上が不可欠といえます。とはいえ、脳の認知に関わる機能を「やればできる!」などという精神論だけで向上させることは難しいでしょう。

実は近年、精神医療やビジネスの分野で幅広く取り入れられているマインドフルネスが、実行機能の向上にも有効であることが明らかになっているのです。

マインドフルネス瞑想と3つの実行機能とは

座禅を組んでいる人
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マインドフルネスとは、「今この瞬間に意識を集中する」という、仏教の教えをもとにした考え方です。

精神医療の分野では、瞑想によって能動的に注意をコントロールする技法として臨床にも取り入れられ、高い効果が報告されています。

近年、アメリカを中心に東洋の宗教的な思想に注目する人が増えたことで、マインドフルネスは穏やかな心の状態を維持するというライフスタイルや思想としても世界的に大きなムーブメントを巻き起こしています。

一方、実行機能には、以下の3つの要素が含まれるとされています。

1.ワーキングメモリの更新

人間の脳
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ワーキングメモリとは、課題を達成するために必要な情報を記憶しておく機能のことです。

また、発達心理学においては、ある情報を短時間保持しながら同時に他のことも処理する能力のことを言います。たとえば読書をする場合、ワーキングメモリにより内容を途中まで覚えておいて、読み終えるまで記憶を保持することで一冊の内容を理解するというような能力です。

実行機能が向上することで、頭の中で情報を整理するチカラがつき、ワーキングメモリを更新させることが可能です。

2.抑制

部屋から外の景色を見ている男性
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ここでいう抑制とは、必要に応じて反応的、衝動的な行動や思考を止めることです。

たとえば仕事中や勉強中に、「おしゃべりをしたい」「趣味のゲームをしたい」という欲求をガマンする機能のことです。欲求を抑えるには理性を強化する必要があり、実行機能を向上させることで理性を強め、効率的な生活ができるようになります。

3.認知的柔軟性

ホワイトボードに付箋を貼っている女性
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認知的柔軟性とは、課題を遂行するうえで新しい要求やルール、優先事項に対応し、自分の視点や問題へのアプローチを柔軟に切り替える機能のことです。状況に応じて臨機応変に対応したり、うまくいくまで試行錯誤するための機能といえます。

いずれの要素も、必要に応じて自らの意識を能動的にコントロールすることが重要となるため、「今この瞬間に意識を集中する」というマインドフルネスの基本的なアプローチが、実行機能の向上に有効であるとされているのです。

トレーニング次第で脳機能はアップする

暗闇で瞑想している人の頭部がぼんやり光っている
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マインドフルネスの実践は「マインドフルネス瞑想」という瞑想が基本となります。

リラックスした状態で目を閉じ、自らの呼吸に意識を集中し、注意をそらす思考や刺激を感じたらそのことを認識してゆっくりと呼吸に意識を戻す、という瞑想法です。マインドフルネス瞑想について、詳しくは下の記事をご覧ください。

マインドフルネスの実践においては、続けることが重要となります。

経験した人は実感できることですが、自分の意識を能動的にコントロールし続けることは想像以上に難しく、それを自然にできるようになり日々の生活の中で活かせるまでに至るには、トレーニングの積み重ねが必要となります。

芝生で座禅を組んでいる男性
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また、不慣れなマインドフルネストレーニングは 、自らの思考や行動を制御するための脳のエネルギーを一時的に枯渇させるともされています。

このエネルギーが枯渇するほど、実行機能の要素の一つである「抑制」が困難になるとされています。マインドフルネストレーニングに慣れていない人は、どうしても瞑想の最中に余計な思考が浮かぶとそれを考えないようにしようとしてしまいます。そのことによって脳が疲弊し、エネルギーが枯渇してしまうと考えられます。

ただし、この脳のエネルギーは一旦枯渇しても回復するということがわかっています。ある研究では、マインドフルネストレーニングは2週間実践することで、脳のエネルギーを枯渇させることなく、むしろ回復させる方向に働くということがわかりました。

ここで、マインドフルネストレーニングの初心者でも取り組みやすい簡単な練習法を紹介します。

数息観(すうそくかん)とは

数字が埋め込まれている壁
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数息観とは、仏教において「安那般那念(あんなはんなねん)」とも呼ばれる瞑想法です。読んで字のごとく、自分自身の呼吸を数えるという瞑想になります。

リラックスした状態で自然なペースの呼吸を心がけ、息を吸って吐くまでを1回としてゆっくりと10まで数え、10までいったらまた1から数え直し、これを繰り返します。

途中で思考や刺激によって呼吸から意識がそれたら、その思考や刺激を認識したうえで、またゆっくりと呼吸に意識を戻すようにしましょう。

呼吸を数えるだけなので誰にでも実践しやすく、マインドフルネスの導入的な練習法として、様々な研究・臨床で取り入れられている方法です。

マインドフルネス瞑想でやり遂げられる自分を作ろう

夕日をバックに拳を掲げている女性
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実行機能は脳に備わっている認知機能のひとつであり、向上させるのは容易なことではありません。また、認知機能は一般的に年齢とともに低下していくものであるため、実行機能についても、高齢であるほど低減しやすく、向上しづらいとされています。

しかし、マインドフルネスを用いた認知機能の改善は高齢者介護の分野でも取り入れられており、一定の効果が報告されています。

マインドフルネスによって実行機能を高めるには、日常的にトレーニングを繰り返す必要があるため、短期間で効果が実感できるものではありませんが、まずは自分が取り組みやすい方法で、マインドフルネスを生活の中に取り入れることが重要といえるでしょう。

実行機能が向上することで、不快な感情を抑制したり、ネガティブな思考から自然と距離をとることができるようになれば、ストレスに対する耐性も高まるとされています。また、実行機能の向上とともにワーキングメモリを増やすことで、できることの幅が格段に広がります。日々の生活の中で設定した目標を達成できるようになることは、充実感幸福感にも繋がることでしょう。

人生において、面倒なことや困難なことは数多くあります。そういった物事に直面した際、「どうせできない」と諦めたり投げ出したりすることなく挑戦し、やり遂げることで、人生はより活き活きと充実したものになるのではないでしょうか。

そのためにも、マインドフルネスによって実行機能を高めるトレーニングを始めてみてはいかがでしょう。

Source:

田中圭介,杉浦義典
「実行機能とマインドフルネス」(心理学評論,Vol.58,No.1)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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