今、多くの国で高齢化が進んでいます。

国連加盟約200か国のうちもっとも高齢化が進んでいる日本では、このままいけば2025年には65歳以上の人は全人口の30%に達し、2人の現役世代で1人の高齢者を支える時代に突入することになります。

日本だけでなく、イタリアやポルトガルなどヨーロッパにおいても高齢化の波が押し寄せており、世界的にも警鐘が鳴らされているのが現状です。

そこで、人に代わる存在として「AI」の存在が挙げられますが、我々が高齢化社会を乗り越えるために、AIをはじめとする技術がいったいどんな助けとなってくれるのでしょうか?

高齢者に広がるAIの支援

AIによる支援は、主に3つあると考えられています。

1、医療や介護の補助
2、生活支援
3、コミュニケーションの支援

以下、一つずつ見ていきましょう。

1、医療や介護の補助

医療用ロボット

医療・介護面においては、高齢化による医師不足を解消する上で大きな助けとなります。また、AIであれば細かな作業やデータ管理など、人の手よりも正確かつ迅速な対応が可能になり、煩雑で膨大な作業の多い医療現場においては重宝される存在と言えます。

AIがより広く医療現場に根付くためにも、機能や精度向上は求められていくことでしょう。以下に挙げるのは、医療・介護において今後活躍が期待される内容です。

<診療支援>
・自宅での問診
・生体データの共有
・画像診断(皮膚、内視鏡、眼底、放射線画像等)
<AIと専⾨医による共同支援>
・問診、身体所見、画像診断、その他検査所見を総合しての診断
・処方時のサポート(自動で腎機能に適切な用量調整、薬物相互作用等)
・オンライン診療(患者と医師、医師と専⾨医等)
<患者支援>
・患者が知りたい情報をわかりやすく提示

2、生活支援

AIスピーカー

今やお掃除ロボットや電動車イス、自動車の自動運転化など、便利な機能を備えた機器が多数存在しています。これらは高齢者のみならず一般的にも活用されていますが、自力での日常生活が困難な人にとっては必需品とも言えます。

生活をサポートしてくれたり、介護が必要な場合の手助けをしてくれるという点において、介護する側の負担を減らすというメリットがあると同時に、介護される側にもメリットがあるのです。

介護対象者の中には、「自分のせいで人が大変な思いをしている」「人に迷惑をかけている」といったような自己嫌悪に陥る人も少なくありません。そういった人たちにとっては、ロボットなら気を使わないで済み、精神的な不健康を回避できる可能性があるのです。

この他にも、キャッシュレス決済や飲食店のタッチパネル等、人の手でできていたことがシステム化することで、高齢化社会による人手不足の解消にもつながるのではないでしょうか。そのためには高齢者たちにもわかりやすく使ってもらうような工夫が必要です。

3、コミュニケーションの支援

コミュニケーションの支援は、AIの魅力の一つです。

音声認識システムを搭載したAIアシスタントの「アレクサ」や、自然言語処理を用いた「Siri」等、人と話せるAIは数多く存在し、コミュニケーションが苦手な人や孤独を感じている人にとって大きな支えになっています。また、スマホアプリにも人工知能を謳ったものがあり、人と人のコミュニケーションのみならず「人とAIのコミュニケーション」が実現しているのです。

高齢者の中には孤独を抱える人も少なくありません。誰かと話すだけで心が落ち着き、孤独感を和らげる効果も期待できるでしょう。

また、会話は脳を使うので健康にもいいそうです。話すときには口や舌を動かすため前頭葉の運動野が働き、話を聞くときには側頭葉の聴覚野も働きます。さらに記憶に関わる海馬も刺激され、会話しながら考えたりすることで前頭前野も活性化されます。つまり、会話は脳をフル回転させる作業と言えるのです。

こういったコミュニケーションAIの開発は、コミュニケーション不足になりがちな高齢者にとって大きな味方となるのではないでしょうか。

ロボットとは違うAIの強みとは

AI人型ロボット

とある研究では、施設に入居する高齢者が「風呂に入りたがらない」ときにとった行動が、AI開発のヒントになっているそうです。

一般的には、入浴を嫌がっている場合は「入浴拒否」とされ、別日に入浴させるか多少強引にでも入浴してもらうのが通例のようですが、ある施設では、風呂に入りたがらない高齢者にスタッフが世間話をしていくそうです。

風呂に関すること以外の他愛ない話でコミュニケーションをとり、本人の気持ちが和らぐようなケアをすることで、仕草や表情の変化を観察するそうです。そうやって和んだ後に「お風呂に入ろう」と誘うと、「じゃあ入ってやろうかね」と入浴してくれることが多いのです。

「こう話しかけたら表情が穏やかになった」「長く目を合わせて話すと受け答えがしっかりした」など、風呂に入るまでの一部始終を記録・分析してコンピューターで情報処理をすることで、高齢者にとってはいわば「気持ちのわかる」AIを作ることができるというわけです。

ちなみに、ロボットとAIは全くの別物です。

ロボットとは、決められた動作を正確に反復して行うことができるものを言います。プログラムされている以外の行動は行えないため学習する機能はなく、自分で判断することもできません。

それに対してAIは、人の脳のように物事を学習して進化させていくことができます。
上記のような風呂での対応しかり、また、将棋のように勝ち負けが決まっている物事に対しては指し手や配置、戦況等のいろいろな状況を踏まえて何千、何万通りのシミュレーションを行います。今がどういう状況なのかを判断し、その場に応じて最適な一手を導き出す、そのような対応が可能なのがAIと言えるのです。

AIの今後の課題とは

画面に映るデータ類

このように、AIをはじめとする技術は高齢者にとって大きな支えになります。しかし、まだまだ発展途上な面は否めません。

固定化された業務や定型的な作業においては力を発揮できるものの、データをたくさん集められないようなものについては力を発揮できないのが現状です。人間で言うところの、今までの経験をもとにした「勘」のような対応が苦手なため、正確に指示するために定量的な情報を与えなければならず、これが出来ない分野については今後も研究が進められていくでしょう。

技術の発展は、高齢者のみならず人々の生活をさらに便利にしていくと言っても過言ではありません。

ただ一方で、AIによって人間の仕事が奪われるかもしれないという懸念も聞かれますが、この少子高齢化を乗り切るためにはAIや最先端技術は欠かせない要素になるのではないでしょうか。


Image:Unsplash
Source:
大武 美保子(千葉大学,NPO 法人ほのぼの研究所,科学技術振興機構)
【認知症の予防と支援に役立つ人工知能と高齢者とともにつくる認知症予防支援サービスの開発】

髙栁 宏史
【高齢者医療におけるAI(Artificial Intelligence:人工知能)への期待】

坂本 真樹(電気通信大学)
【特集「超高齢社会と AI ─社会生活支援編─」にあたって】(人工知能31巻3号(2016年5月))

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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