多くの現代人を悩ませているうつ病
実は、うつ病には種類があることをご存知ですか?

ストレスによって脳のエネルギーが枯渇してしまう「メランコリー型うつ病」や、精神症状よりも身体症状が強く現れる「仮面うつ病」、出産後に症状が現れる「産後うつ病」など、原因や症状によって分類されています。

今回は、うつ病の中でも冬にだけ症状が現れる「季節性うつ病(冬季うつ)」の原因とその克服法を紹介します。

冬季うつの原因はセロトニン不足?

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冬季うつは、その名の通り冬になると抑うつ気分が続き、春先になると改善するうつ病の一種です。特に女性に多いとされ、その患者数は男性の1.5倍にのぼると言われています。

症状としては、気分が落ち込むことに加え、過眠、過食などの症状が多くみられ、特に炭水化物や甘いものが多く欲しくなるという傾向があります。

冬季うつによって脳内でどういった変化が起こっているのか、詳細はよくわかっていませんが、その一番の原因は気温や湿度ではなく、日照時間が短くなることによるセロトニンの不足であるといわれています。

セロトニンは人間の感情の波や、食欲を伝達する役割を担っている物質で、このセロトニンが不足することで体内時計のリズムが崩れたり、気分が落ち込むといった症状が現れます。セロトニンは太陽の光を浴びる(網膜から光を取り入れる)ことで合成される物質のため、悪天候が続いたり、日照時間が短くなる冬には不足しやすいとされています。

冬季うつの対策と克服方法とは

①日光浴でセロトニン不足を解消

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セロトニンの不足を予防するためには、日照時間の短くなる冬でも、十分な時間光を浴びることが重要です。

まずは規則正しい生活を心がけ、1日1時間以上日光を浴びるよう心がけましょう。セロトニンは網膜を介した太陽光によって合成されるため、日光を目の奥に届かせることが重要です。

屋内でも、窓の外に目をやることで日光を体内に取り入れることができます。自宅やオフィスなどでは、日中はできるだけカーテンやブラインドを開け、こまめに窓の外を見るようにしましょう。

また、セロトニンの合成には、その材料となるトリプトファンという物質が必要です。トリプトファンは豚肉などの肉類や豆腐や納豆などの豆類、果物ではバナナなどに多く含まれています。

一般的な食事で不足することは少ないとされていますが、冬季うつの人は炭水化物や甘いものを多く欲する傾向にあるため、トリプトファンや他の栄養素が不足してしまう懸念があります。意識的にトリプトファンを含む食物を摂取するといいでしょう。

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②食事でビタミンDを補給

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抗うつ作用があり、うつ病の予防や改善に不可欠な栄養素として、ビタミンDがあります。

ビタミンDは皮膚で日光を浴びることで体内に生成されるため、こちらも日照時間の短くなる冬には不足しがち。日常的に十分な太陽光を浴びることが難しい場合は、ビタミンDの多く含まれる食べ物を摂取することで補いましょう。

ビタミンDはサケやマスなどの魚介類鶏卵牛乳、キクラゲや干しシイタケなどのきのこ類に多く含まれています。穀類や野菜には含まれておらず、また肉類にもそれほど多くは含まれていない栄養素なので、意識的に摂取する必要があります。

③高照度光療法

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冬季うつの一般的な治療法として、高照度光療法があります。

セロトニンの生成には、3000〜10000ルクス程度の明るさが必要とされていますが、一般的な家庭やオフィスなどの屋内照明は数百ルクス程度とされており、セロトニンの生成には不十分です。高照度光療法は、専用の機器を使って強い人工の光を照射しセロトニンの生成を促すことで、症状を改善できるとされています。

高照度光療法は病院の睡眠外来などで受けられる他、簡易的な家庭用の機器も市販されています。日常的に太陽光を浴びる時間を確保することが難しい人は、この治療法を利用すると良いでしょう。

冬季うつを克服して穏やかな冬を過ごそう

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冬は多くの動物にとって過酷な季節です。
そのため、冬場に栄養を蓄えたうえで活動を最小限に抑制しようとするのは、遺伝子に刻まれた動物としての本能といえます。冬季うつに見られる症状の多くは、こうした動物の本能に近いものがあり、そういった意味では冬季うつはそれほど異常な状態とは言えないのかもしれません。

しかし、言うまでもなく現代人は冬眠をすることはなく、仕事や家事を含んだ日々の生活を滞りなく送るためには、冬場でも心身ともに活力ある状態を維持しなくてはなりません。

冬季うつを予防するためには、日常的に十分な量の光を浴びることと、必要な栄養をバランスよく摂取することが大切です。まずは規則正しい生活を心がけ、不足しがちな栄養素は意識的に補うようにしましょう。それが、冬季うつに負けずに冬を乗り切るためのカギといえるのではないでしょうか。

Source:

福岡 義隆
「気象・季節の感情障害への影響」(地球環境 Vol.8 No.2,221-228,2003)

村上 純、山田 尚登
「光と気分」(照明学会 誌 第86巻 第6号 平成14年)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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