近年、職場や学校でのメンタルヘルス対策は多くの国が積極的に取り組むべき課題とされています。

その一方で、職場や学校よりも家庭内でストレスを感じている人も多くいます。

家事の負担や家計の問題、育児・介護、親戚付き合い、ご近所付き合いなど、家庭内で生じるストレスは多岐に渡ります。既婚者が家庭内で悩みを抱えたとき、まず相談するのは夫や妻であることが多いでしょう。夫婦とは、人生の中で生じる諸問題に立ち向かうためにもっとも重要なパートナーといえます。

しかし、その夫婦関係に問題がある場合、ストレスを一人で抱え込んでしまうことになってしまうかもしれません。そうならないためにも、より良い夫婦関係を築く必要があります。

ここでは、夫婦生活でストレスが生じる理由や、亀裂の入った夫婦関係を改善する方法についてご紹介します。

夫婦は「自分が選んだ家族」

川辺で男性の背中にもたれかかる女性
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夫婦関係は人生の中で生じる数々の人間関係の中でも、その成り立ちが特殊であるといえます。

たとえば親子関係の場合、子は自分の親を選ぶことはできず、親もまた、生まれてくる子供の性質や性格を選ぶことはできません。しかし、夫婦とは元は他人である者同士が出会い、双方の意志で関係を構築していくものです。つまり、誰と結婚して夫婦になるかということは、自分で選ぶことができるのです。

選択の余地があるということは、そこに後悔の余地もあるということです。

結婚前は「私にはこの人しかいない」「最高のパートナーだ」と感じた相手であっても、共に生活を送るうちに些細な不満や価値観のズレが生じ、精神的に疲弊してしまうこともあります。「こんなはずじゃなかった」「自分にはもっとふさわしい相手がいたのではないか」と結婚を後悔してしまうこともあるかもしれません。

結婚生活はストレスフル

ベッドで腕を組んで座っている女性
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2020年現在、日本における結婚の平均年齢は30歳前後といわれています。一方で平均寿命は女性が87歳、男性が81歳とされています。

つまり離婚をしない場合、多くの既婚者にとって、結婚生活が人生の半分以上の時間を占めることになります。それほどに長きに渡る時間をともに過ごす上で、お互いに不満が生まれるのはごく自然なことです。問題は、その不満を受け入れて夫婦関係を維持できるかという点です。

日本における離婚率は、2019年時点で36%にのぼり、結婚した夫婦のおよそ3組に1組が離婚していることがわかっています。調査によると、離婚の原因として男女ともに最も多いのが性格が合わないこと。多くの夫婦が相手への不満を募らせ、ストレスに耐えかねて離婚という道を選択しているようです。

砂浜に描かれているハートマーク
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夫婦間で大きなストレスが生まれてしまう主な原因として、コミュニケーション不全があると考えられます。結婚前は相手の全てを肯定的に捉えることができたとしても、結婚生活を送るうちに相手の嫌な部分ばかりが目についてしまうことは珍しくありません。

厄介なのは、それを相手に伝えたら摩擦を生む可能性があり、伝えなかったら自分の中で不満が蓄積されてしまう、ということです。お互いの考えを理解し、建設的なコミュニケーションを経てより良い関係を構築するのが理想ではありますが、それは口で言うほど容易いことではないでしょう。

夫婦間の4つのコミュニケーションとは?

海辺で焚き火を囲んでいる男女
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良好な夫婦関係のためにはコミュニケーションが大切とはいえ、ただ会話の量が多いだけでは、健全なコミュニケーションが行われているとは言えません。

コミュニケーションにおけるお互いの態度も、関係構築には重要です。ある研究によると、夫婦のコミュニケーションにおける態度には「共感」「威圧」「依存・接近」「回避・無視」という4つの次元が存在するとされています。

このうち、「共感」や「依存・接近」といったポジティブな態度は妻に多く見られ、「威圧」や「回避・無視」といったネガティブな態度は夫に多く見られるとされています。

ポジティブなコミュニケーション

夕日を見ながら手をつないでいる男女の背中
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共感

相手に優しい言葉をかける、会話が弾むよう感情豊かに話す、など

依存・接近

嬉しいことがあると真っ先に相手に報告する、悩みごとを相手に相談する、など

ネガティブなコミュニケーション

手を顎に当ててこちらを見ている女性
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威圧

日常的な会話を命令口調で行う、相手を小馬鹿にしたような言動をする、など

回避・無視

自分の意見や考えを相手に伝えない、相手の話を上の空で聞いたり、いい加減な相槌を打つ、など

手を繋いでいる男女
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「威圧」「回避・無視」の態度によって、相手がストレスを感じてしまうことは想像に難くありません。また「依存・接近」はポジティブな態度とされていますが、疲れている時や話したい気分ではないときに相手から一方的に「依存・接近」のコミュニケーションを押し付けられると、不快に感じることもあるでしょう。

「自分の意見を相手に伝えない」といった「回避・無視」はネガティブな態度ではありますが、摩擦を避け、関係を維持する上では有効な場面もあります。

とはいえ、常に自分の意見を押し殺して生活するのはストレスが溜まるもの。回避的な態度を常套手段とせずに、時には自分の意見をしっかりと相手に伝えることも大切です。自分の意見を伝える際には「共感」の態度を意識して、相手の気持ちや立場に配慮した伝え方をすると、円滑なコミュニケーションに繋がりやすいでしょう。

夫婦間のコミュニケーション不全を避けるためには、まずは自分がどのように相手に接しているかを自覚することが大切です。できるだけ威圧的な態度を避け、相手に共感する姿勢を心がけると良いでしょう。

夫婦関係のストレスを緩和するための方法

方法1.相手と自分の不完全さを受け入れる

女性を包み込む男性
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夫婦とは言え、元は育った環境も経験してきたことも違う他人同士。価値観や考え方が違っているのは当然です。自分の考え方が正しいと決めつけず、相手の気持ちや立場を理解する姿勢を心がけましょう。

結婚前に恋愛をしている時期は、お互いに「相手から好かれたい」「できるだけかっこいい自分を見せたい」と努力し続けることもできるかもしれませんが、結婚して生活を共にするとなると、一切の隙を見せないように振る舞い続けるのは難しいことです。

多くの場合において、人間的に足りない部分やイヤな部分を相手に見せているのはお互い様でしょう。自分が相手に対して不満を感じ、それを我慢し、時には許しているのと同じように、相手もそうしているのだと気づくことが大切です。

また、他者に対して求めるものが多い人(許せないことが多い人)は、ストレスを感じやすいとされています。

  • 空気を読めない人が嫌い
  • 清潔感のない人が嫌い
  • 仕事でミスをする人が嫌い

など、他人を批判的に評価する人は、自分に対しても批判的な目線で評価してしまい、ストレスを抱え込みやすい傾向があります。逆に、他人の悪い部分を許容して良い部分を見つけることが得意な人は、自己肯定感も高く、ストレスに強い傾向にあるのです。

日常的にポジティブな物事に気づき、意識を向けることはメンタルヘルスの基本です。相手の長所や美点に気づき、意識することで多少の欠点は許容できるようになるかもしれません。日頃からポジティブな物事を意識するには、日記をつけるという手法がオススメです。詳しくは下の記事をご覧ください。

方法2.マインドフルネスを取り入れる

座って瞑想している手
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相手と健全なコミュニケーションをとったり、相手を受け入れる姿勢を持つためには、まずは自分自身が精神的に落ち着いた状態になる必要があります。そのためにはマインドフルネスと呼ばれるアプローチが効果的です。

マインドフルネスとは、瞑想などのテクニックを用いてネガティブな思考や感情を抑制し、ありのままの「今」に意識を集中するという手法です。瞑想というとハードルが高いと感じてしまう人もいるかもしれませんが、マインドフルネスのトレーニングには誰でも簡単に試せる手軽なものもあり、その一つが数息観(すうそくかん)というものです。

数息観は読んで字のごとく、自分自身の呼吸を数えるという瞑想法です。リラックスした状態で自然なペースの呼吸を心がけ、息を吸って吐くまでを1回としてゆっくりと10まで数え、10までいったらまた1から数え直し、これを繰り返します。途中で思考や刺激によって呼吸から意識がそれたら、その思考や刺激を認識したうえで、またゆっくりと呼吸に意識を戻すようにしましょう。

呼吸を数えるだけなので誰にでも実践しやすく、マインドフルネスの導入的な練習法として、様々な研究・臨床で取り入れられている方法です。マインドフルネスについて、詳しくは下の記事をご覧ください。

方法3.ストレス解消法を実践

花畑でリラックスしている女性
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マインドフルネスの他にも、日常生活の中で手軽に実践できるストレス解消法はたくさんあります。
こちらに、科学的に効果が認められており誰でも簡単に実践できるストレスケアのテクニックを多数紹介しています。

「あなたも今すぐメンタルケア!ストレス解消法」一覧

スキマ時間に取り組める手法も多いので、夫婦関係のストレスでイライラしたり、大きな不安を抱えて悩んでいる人は試してみてはいかがでしょう。

方法4.我慢しないで相談する

屋上で話し合っている男女
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日常生活の些細な愚痴などは、友人に話したりSNSに投稿したりして発散することもできるでしょう。しかし、DVや夫婦間でのモラハラ、セックスレスなどの深刻な悩みを抱えている場合、自分の両親や親しい友人相手でもなかなか相談しづらいと感じてしまうかもしれません。

誰にも相談できないままストレスを溜め込んだ結果、うつ病を発症したり、離婚に発展したり、最悪の場合は刑事事件に発展してしまうケースもあります。手の施しようのないほど夫婦関係が破綻してしまう前に、勇気を出して誰かに悩みを打ち明けることが最悪の事態を避けるための最善の方法と言えるでしょう。

相談できる人がいない、または周りに知られたくない悩みがある場合は、カウンセラーなどの専門家に相談するのも手です。

また、今はスマホアプリでメンタルケアができる時代です。AIロボと会話しながら心を落ち着かせ、感情を記録することで自身を客観的に見ることができます。話せば話すほどユーザーを知り、より的確なカウンセリングを受けることができる「AIカウンセリング」をぜひ試してみてください。
SELF MIND

イライラを抑える具体的な改善方法

改善法1.一人の時間をつくる

一度イライラしてしまうと、夫(妻)の姿を見るだけでストレスを再燃させかねません。そのため、夫(妻)と距離を置き、意識的に1人の時間を取りましょう。距離を置くといっても別居するということではなく、冷静になり自分と向き合う時間を作るということです。

ここでおすすめなのが、セカンドパーソン・セルフトークというストレス解消法です。

文字通り自分自身と対話をするというもので、他者視点に立って自分を俯瞰することで冷静になることができます。一人になって自分自身と向き合うことで自分をコントロールできるようになるので、ストレスを受けにくい身体を作ることにもつながります。

改善法2.イライラしていることを相手に伝える

夫(妻)にストレートに想いを伝えるのも有効です。

関係が長くなるにつれて、言葉でのコミュニケーションが減っていく傾向にあります。言わなくても伝わると思い込んでしまうことで少しずつすれ違いが生じ、イライラが募るというケースは多いものです。我慢することも時には大事ですが、我慢し続けることで状況がこじれてしまう恐れもあるので、思っていることはきちんと言葉で伝えましょう。

ここで注意したいのが、言葉での伝え方です。感情のままに言葉をぶつけるのではなく、相手を思いやる気持ちを持つことが大切です。

例えば、相手が服を脱ぎっぱなしにしたとき、「脱ぎっぱなしにしないで」と言うよりも「脱ぎっぱなしにしないでくれると嬉しいな」など、「そうしないと相手を嫌な気持ちにさせてしまう」という感情にできるような言葉を選んで伝えるようにしましょう。

改善法3.好きなことに時間を費やす

一時的でも、ストレスから解放される時間を持つことは重要です。

手っ取り早いのは趣味です。
ストレスや雑念から離れ、何かに夢中になる時間は効果的なリフレッシュとなるでしょう。

かと言って、趣味にはいろいろな種類があり、何をしたらいいのかわからないという人も多いかもしれません。趣味を考える際には「いつでも・どこでも・短時間で」できるようなものを見つけられるとよさそうです。

ダンスやぬりえなど、運動系から文化系までいろいろあるので好みの趣味を見つけてみましょう。

改善法4.気持ちを話す

イライラしている気持ちを第三者に話すだけでもストレス抑制に有効です。人が他人にネガティブな感情を共有する時、約8割が怒りの感情であることが分かっており、自分の気持ちを誰かに共有することで頭が整理され、イライラを落ち着かせることができるのです。

人に愚痴を吐くのには抵抗があると感じる人は、AIに話してみるのもいいかもしれません。

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SELF MIND

人間関係はメンタルヘルスにおける薬

林道で手をつないで踊っている男女
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社会生活を営む人間にとって、他者とのコミュニケーションは避けては通れません。考え方や価値観、立場、環境によってコミュニケーションの取り方は様々であり、その都度適応していかなくてはならないため現代社会はストレスを抱えやすいと言えます。

しかしながら、人間関係はメンタルヘルスにおいてとも言えます。

自分をさらけ出せる友人がいるだけでストレスが和らいだり、悩みを相談できる相手がいるだけで気が楽になるということもあります。在り方ひとつで、心を摩耗させる毒にも心を癒す薬にもなる人間関係は、メンタルヘルスを考える上で重要なテーマであると言えるでしょう。

しかし、人間関係の悩みに明確な解決法はなく、誰もが手探りで答えを探すしかありません。それでも、少し視点や考え方を変えてみることで、良質な人間関係を築くことができるかもしれません。

Source:

黒澤 泰,加藤 道代
夫婦間ストレス場面における関係焦点型コーピング尺度作成の試み」(発達心理学研究
2013,第24巻,第1号,66−76)

粕井 みづほ
夫婦間コミュニケーションの特徴と結婚年数による違い」(日本家政学会誌 Vol. 65 No. 2 50 ~ 56,2014)

厚生労働省
令和元年(2019) 人口動態統計の年間推計」(政府統計)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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