人生において、不安心配といった感情は切り離すことのできないものです。どんなに知識がある人でも、未来がどうなるかを正確に予知することはできません。

「もしかしたら失敗するかもしれない」
「想定外の事態に直面するかもしれない」

そういった未来への不安は、多かれ少なかれ誰の心にもあるものではないでしょうか。大地震新型コロナウイルスのような未曾有の災害が起きればなおさらです。

心が不安に支配され、翻弄されるのを防ぐためには、不安というものの正体を知り、その状況に応じた適切な対処をとることが重要です。

不安や心配は悪いことではない?

地面に寝そべり考える女性
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私たちは不安なことや心配なことがあると、ついついそのことばかりを考えてしまい、心にゆとりがなくなってしまいます。その結果として、生活のあらゆる場面でイライラしやすくなったり、眠れなくなったりと、様々なストレスを感じるようになってしまいます。

しかし、そもそもメンタルヘルスの分野で心配(worry)は、

「否定的な情緒を伴った、制御の難しい思考やイメージの連鎖。不確実だが、否定的な結果が予測される問題を心的に解決する試み」

(Borkovec, Robinson, Pruzinsky & DePree, 1983, p.10)

と定義されており、心配という状態は、それ自体がストレスへの対処であるとされています。

様々な問題から心を守るために人に備わっている自然な反応だと考えれば、心配や不安感はそれほど忌避すべき感情ではないのかもしれません。

不安なときほど気をつけたい行動は3つ

不安になるとどうなる?
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不安や心配がストレスへの対処とはいえ、それがネガティブな感情を伴うということに変わりありません。そして、ネガティブな感情は時に自己や他者を追い詰め、社会に不利益となる行動へと私たちを追いやってしまいます。

不安感に心が支配されてしまった時、私たちはどのような行動をとってしまうのでしょう。それを正確に把握しておくことが、不安感に襲われたときにも不適切な行動をとらず、冷静に対処するためのカギといえるでしょう。

1)情報を過剰に収集・発信しない

パソコンを打っている手を上から
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不安とは、望まない結果をもたらす可能性のある問題に対して生まれる感情です。

不安感を解消するためには結果の不確実性を打ち消す必要があるため、不安を感じている人はたくさんの情報を集め、周囲と共有しようとします

特に災害時など、社会全体が大きな不安感に直面しているときには、インターネット上に平時の何倍もの情報が発信されることがわかっています。そんな中で、時に流言デマという誤った情報が拡散され、人々をさらなる混乱へと陥れる結果になってしまうのです。

昨今の新型コロナウイルスの感染拡大で「トイレットペーパーが不足する」というデマに踊らされた人々が、買い占め・買いだめといった行動に走ったことは記憶に新しいのではないでしょうか。

非常時に多くの人が不安に駆られ、過度な情報収集・発信をする状況下では、よりいっそうの情報リテラシー(必要な情報を収集し、整理し、発信するための能力)が求められるといえるでしょう。

2)攻撃的にならない

腰に手を当てて怒っている女性
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人は強い不安感に襲われたとき、それを他者への攻撃性に転嫁して解消しようとする場合もあります。不安や心配事で頭がいっぱいになると、精神的なゆとりがなくなってしまい、些細なことでもイライラしやすくなってしまったり、攻撃的になってしまうのです。

また、不安を解消しようとしているときに、その行動を邪魔するような人や物を見つけると、攻撃して排除したいという心理に陥ってしまうようです。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って起こった、感染者や医療従事者への差別や誹謗中傷は、多くの人々が不安感を攻撃性に転嫁して解消しようとした結果なのかもしれません。

3)支援や団結力を煽らない

大勢で歩く女性
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社会が大きな混乱に直面した際、人々の中で批判的・攻撃的な感情が高まる一方、支援や団結を呼びかける動きも活発になることがわかっています。

ボランティアなどの支援活動に参加することは、問題解決のための直接的な取り組みであり、不安感をもたらす事象の不確実性を軽減する行動であるといえます。

支援は、「困っている人を助けたい」という善意から起こるという側面もありますが、「人を助ける」という直接的な行動をとることで、自らの不安感を緩和しようとする自助行動でもあるのです。

また、社会的な混乱に際しては、不安を払拭するために団結力を鼓舞する人々もいます。東日本大震災後に行われた調査では、以下のような結果が出ました。

「この国家的危機に団結できない政治家は問題だと思う」(54,3%),「政府はもっと被災地を支援すべきだ」(46.5%)と,半数の人が「団結」「支援」というものを政治家,政府 に求めていた。また「日本は団結すべきだ」(38.7%),「目本人を誇りに思う」(25.8%) など,戦時にも近いような非常時ゆえのナショナリズムの高揚と結びつき「団結」「支援」 を求める意識が高揚していった。

(情報の科学と技術 62巻 9 号)

団結力という言葉はポジティブな意味でつかわれることが多い言葉ですが、不安感から他者に団結を求めすぎることは同調圧力ともなり、そこから意にそぐわない人を排除しようという空気が生まれることもあります。

新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛要請が出た際、要請に従わない人や不適切だと思われる行為を、個人的に非難したりネット上でさらし者にする「自粛警察」と呼ばれる人々が現れたのも、不安感から団結力を鼓舞したことの行き過ぎた結果だったのかもしれません。

自分の力で解決できるかどうかを考えよう

窓に手をかけて考える女性
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日々の暮らしの中で不安感が高まったとき、適切に対処するためには、まず不安の元となっている問題が自分の行動次第でどうにかできる問題かどうかを見極める必要があります。

たとえば、個人の経済状況や健康の問題など、自分の行動次第で問題を解決、または改善が期待できる場合には「貯金をする」「病院で検査を受ける」など、その問題解決に焦点を当てた対処行動をとることで結果の不確実性が軽減され、不安を和らげることができるでしょう。

一方、災害での社会的混乱や経済不安の中、個人レベルの行動でその問題をどうにかすることは困難です。そういうときは、その問題に焦点を当てた対処ではなく、「規則正しい生活を送る」「適切に気分転換する」など、自分自身のカラダと心の状態に焦点を当てた対処をとることで、不安感を軽減することができるとされています。

まとめると、不安の元になっている問題が、

  • ・自分の行動次第でどうにかできる場合はその問題解決に焦点を当てた対処
  • ・自分ではどうにもできない場合は自分自身のカラダと心の状態に焦点を当てた対処

をとることが、不安を解消・軽減するうえで有効ということになります。

不安感に適切に対処するためには、まずは不安の元になっている問題の本質を見極めることが重要となるのです。

不安と戦うのではなく、不安と上手に付き合っていく

ベッドにもたれて座っている女性
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不安は不確実な未来に対して生じる感情です。

しかし、そもそも未来というものが誰にも予測できない以上、私たちが人生を送るうえで、不安を完全に解消することは不可能なのかもしれません。

不安な気持ちに心を支配され、自己や他者を傷つけることのないよう、私たちは社会が混乱状態にあるときほど、冷静に、慎重に自分自身の行動と向き合う必要があります。

ただ、人は不安があるからこそ未来に向けて準備をし、努力するものであるとも言えます。その結果、より幸福な未来がもたらされるのだとすれば、不安は私たちがより良い人生を歩むための原動力なのかもしれません

Source:

杉浦 義典
「ストレス事態に関する思考の制御困難性と関連する対処方略」(教育心理学研究,2001)

関谷 直也 
「東日本大震災後の不安と情報行動」(情報の科学と技術 62巻 9 号,372〜377)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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