「着こなしは、生き方だ」

これはフランスのファッションデザイナー、イブ・サンローランの言葉です。
ココ・シャネルやクリスチャン・ディオールと共に20世紀のフランスのファッション業界をリードし、「モードの帝王」と呼ばれたサン・ローラン。独創的かつ想像力にあふれた衣服を数々デザインし、没後も彼の名前はブランド名として残り、今もなお人々を魅了し続けています。

近年、服装と心理効果についての研究が進んでいます。ファッションやオシャレに興味のある人の多くは女性であることが統計上わかっています。

なぜ男性はファッションに疎い傾向にあるのでしょう?その疑問を解いていく中で、ファッションがもたらす心理効果について見ていきたいと思います。

女性に比べてファッションに興味がない男性

昔は、オシャレというと女性がするものという風潮が強かった時代でした。男性が眉を剃ったり、香水をつけたり、メークをするというのはタブーな雰囲気が感じられましたが、今ではそんな風潮も薄れ、ファッションに気を配る男性が多くなりました。

しかし、衣服にかけるお金は男女で大きな差があるようです。

1カ月の衣服の購入金額についての調査では、最も高い「2万円以上」は、女性の方が男性よりも約3倍多く、逆に最も低い「5千円未満」は、男性の方が女性よりも割合が多いという結果が出ています。(※グラフ参照)

1ヶ月における衣服の購入金額の円グラフ

加えて、ファッションを選ぶ基準が男女で異なっていることも影響しています。

  • 「流行りの色やデザインだから」
  • 「目的や場所を変えて服を選ぶ」
  • 「着心地が良い」

このように、女性の多くは服装には流行や社会的規範、機能性を重要視している傾向にあります。

これに対して男性は、ファッションへの関心がない、もしくは消極的な傾向にあるようです。「ファッションにこだわるなんて男らしくない」「服にお金をかけたくない」など、ネガティブな思考を持っている人が多いのが現状です。

もちろん、男性の中にも身だしなみにこだわりを持つ人はいます。特に30歳代以降の中高年世代より20歳代の方がファッションへの関心が高く、そういった若者の多くは流行や個人的嗜好を楽しんでいると考えられます。

服の趣味が変わる?モテたいから安心感を求めるように

鏡前で身だしなみを整える白シャツの男性
出展:Unsplash.com

ここで、服装によっていったいどういう満足感を得られるのか見てみましょう。

首都圏に住む20歳~64歳の男性1279名(学生以外)を対象に、装いの心理的効用について因子分析した結果があります。ファッションによって心理効果が出る、またはファッションにこだわる目的を調査したところ、大きく3つの要素に分類できます。

  • アピール(やる気が起きる、自信が湧く等)
  • 安心感(リラックスできる、心が落ち着く等)
  • 気合い(異性へのアピール、個性の強調等)

これらを年代別、また仕事時とプライベート時で差をグラフにするとこうなります。

年代別のファッションによる感情の影響のグラフ1
年代別のファッションによる感情の影響のグラフ2
年代別のファッションによる感情の影響のグラフ3


「アピール」 については、全年代で仕事時よりもプライベートで効用感が大きいことがわかります。「安心感」についても、プライベート時の方が効用感が大きいですが、仕事・プライベート両面で年代が上がるにつれて効用感が大きくなっています。逆に「気合い」については、プライベートよりも仕事時において効用感が大きく、またどちらの場面においても若年層の方が効用感が大きいことがわかりました。

以上をふまえると、若い世代は異性にモテたいと意識する傾向にあるため、積極的に自分を表現するひとつの手段としてファッションをとらえているようです。加えて、 新しい環境に身を置くことが多い若者は、気合いを入れるためのツールとして考えている人も少なくないと言えそうです。

しかし仕事場面では、服装による自己アピールがよしとされないことも多く、さらにオシャレのバリエーションも制限されるため、アピールの効用が低いと考察されます。

一方、歳を重ね、伴侶も得て、仕事やライフスタイルが安定してくると、気合いを入れる必要が少なくなり、その結果身だしなみに効用を求めなくなると考えられます。また、年齢が高くなるにつれて落ち着いた生活を好むようになるため、服装にも安心感を求めるようになっていくのではないでしょうか。

服装はコミュニケーションの武器になる

美容師が男性を散髪している
出展:Unsplash.com

さらに、ファッションの心理的効果として、自分自身を確認し、強め、変えるというような自己の確認・強化・変容と、他者に何かを伝えるという情報伝達があることがわかっています。

公的自己意識(容姿や振る舞いなど、他者から観察可能な自己意識)の強い人はオシャレに積極的で、自尊感情が高い人は外見に対する関心も高く、目立つ服装を好む傾向にあります。外交的な性格の人は内向的な人に比べ、男女ともにファッションへの関心が高いのです。

これは外回りの営業マンにも似たようなことが言えます。スーツやシャツ、靴、ネクタイをオシャレのポイントにすることで、その身だしなみは商談相手に好印象を与える武器となるのです。コミュニケーションを取る上で、身だしなみを工夫することはひとつの作戦なのです。

オシャレに年齢は関係ない!

腕時計を触るスーツの男
出展:Unsplash.com

ファッションや身だしなみは、メンタルヘルスの維持・改善に役立っています。

女性は男性より感覚が繊細で、ファッションに気を配るポイントも多岐に渡ります。また、女性は高齢になってもファッションへ興味を持ち続ける人が多い傾向にあります。60歳代の女性は30歳代の女性に比べて個人的嗜好を大事にする人が多く、これは、高齢になって流行への関心は薄れていくものの、ファッションへの興味や自分らしさの表現に対して高い意識を持っていると言えるでしょう。

着こなしは生き方という言葉通り、ファッションや身だしなみはアイデンティティのひとつです。着こなしを変えれば人生が変わるかもしれません。

  • 「気分転換したい」
  • 「今までの自分を変えたい」
  • 「好きを追求したい」

など、出来る範囲でファッションに向き合ってみてください。
着こなしによって、あなたの日常が少しでも明るくなれば幸いです。

source:

鈴木公啓(東京未来大学こども心理学部)
菅原健介(聖心女子大学文学部)
西池紀子(株式会社ワコール)
藤本真穂(株式会社ジャパンライフデザインシステムズ)
【男性における装いのこだわりと心理的効用および価値観 -青年期から成人期にかけてー 】

安永明智、野口京子
【ファッションへの関心と着装行動に関する基礎的調査研究:性別、年齢、主観的経済状況、性格による差の検討】(ファッションビジネス学会論文誌17(2012-03)pp.129-137)

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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