- 「恋人と別れた」
- 「大切な人が亡くなった」
- 「引っ越しにより友人と離れ離れに」
生きていれば、誰しもが多かれ少なかれ「別れ」を経験していると思います。
別れの対象が身近な存在であればあるほど、別れが訪れたときに負う心のダメージは計り知れません。
そんな別れが引き起こすストレスとは、いったいどういうものなのでしょうか?
ストレスとなりうる別れの種類

「ホームズとレイのストレス度表」という、世界的に有名なストレス要因を探る調査によると、配偶者の死がストレス度数がもっとも高いとされています。
5,000人の患者を対象に行った調査では、ストレス要因のランキングとして以下の結果が出ています。
※()内はストレス度数
- 1位:配偶者の死(100)
- 2位:離婚(73)
- 3位:別居(65)
- 4位:留置場の拘留(63)
- 5位:親密な家族の死亡 (63)
上位5つのストレス要因のうち4つが近親者との「死別」や「離別」であり、身近な人との別れが大きなストレスとなっていることがわかります。さらに、「死別」と「離別」では、受けるストレスや症状に違いがあるのです。
ストレス要因:死別(主に配偶者)

アメリカにおいて、死別を経験した40人を対象にした調査によると、死別から1カ月後にはほとんどの対象者が抑うつ気分を経験したという報告があります。主な症状としては以下です。
- 食欲不振
- 体重減少
- 寝つきの悪さ
- 中途覚醒
- 不眠傷害(早朝覚醒など)
- 顕著な落涙
- 疲労感
- 周囲に対する興味の喪失
- 落ち着きの なさ
- 罪責感
死別経験者の多くがこれらのような症状で苦しんでいるのが実情です。
数ある症状の中でも特に罪責感に苛まれるケースが多く、上記の調査によると、不治の病や死に際して「自分にしてあげられることはなかったのか」「もっとできることがあったのではないか」というような、自分自身に対して強い後悔の念を抱く人が多いのです。
これは、うつ病患者などで見られるような自尊心の喪失による罪責感や、 犯罪者が感じるような罪を犯してしまった罪悪感とは異なるものであり、死別経験者にとって大きな弊害となっています。
また、死別には予期できるケースとできないケースがあります。病気や寿命などで多少なりとも覚悟ができる場合はまだしも、気軽に連絡できてそばにいることが当たり前とすら思えていた人の突然の死は、それが当たり前ではなくなったと実感したときに喪失感として心のダメージとなるのです。
罪責感をはじめとする抑うつ状態に陥らないためにも、死別者を孤立させず、献身的な周囲の支えが必要不可欠と言えるでしょう。
ストレス要因:離婚

ホームズとレイのストレス度表でも二位となっている離婚によるストレスについては、離婚前と離婚後でストレスの種類に違いがあります。
離婚前に感じるストレスとしては主に、
- 離婚するかどうか:せっかく結婚したのに本当に離婚すべきなのか
- 夫婦で合意がとれない:妻(夫)は離婚したくても夫(妻)が納得しない
- 条件が合わない:財産分与や慰謝料などで折り合いがつかない
- 離婚調停や訴訟が面倒:お金や時間がかかる上、手続きが面倒
また、離婚後のストレスとしては
- 寂しさ:喪失感や、病気など不測の事態に頼れる存在がいない
- 環境の変化:離婚に伴う転居や就職など、生活環境の変化
- 離婚条件の不満:金銭面や親権など、心から納得できていない
- 周囲の目:周囲に理解されなかったり、窮屈な思いをする
上記のようなストレスを抱える人は多く、不眠症や食欲不振、集中力の欠如など、日常生活に支障をきたすことも少なくありません。
さらに、ある研究では離婚は免疫力を低下させ、心身の疾患にかかりやすくなる他、交通事故に遭うリスクが高いという報告もあります。
ネガティブ思考に支配されて体調を崩したり、注意力が散漫になって身の危険を招くというのは自分自身で防がなくてはなりません。そのためには心を許せる人に相談したり、何かに夢中になることで忙しい日々を送ったりと、なるべくネガティブな意識を拡散させてストレスを溜め込まないことが大切です。
ちなみに、SELF MINDではストレス発散に役立つ手法を多数紹介しています。よろしければ参考にしてみて下さい。→SELF MIND公式ブログ
ストレス要因:失恋

「付き合っていた人と別れた」「片思いが実らなかった」などの失恋によるストレスも軽視できない問題です。失恋により眠れなくなったり、食欲がわかなくなったりといった経験をした人も多いのではないでしょうか。
日本では、2018年の厚生労働省の発表によると、うつ病による自殺が20代でもっとも多く、中でも動機として一番多かったのが失恋であることがわかっています。
30代、40代でも比較的多くの自殺者が同様の動機で命を落としており、これは、歳を重ねるにつれて「もう恋愛で失敗したくない」あるいは「プライドが傷つけられた」といったような、必要以上に追い込まれてしまうというような心理が考えられます。
ここで注目したいのが「対人ストレスコーピング」です。対人ストレスコーピングとは、対人関係によるストレスを軽減させるための対処法で、主に3つの種類があります。(未練型コーピング/拒絶型コーピング/回避型コーピング)
それぞれを失恋のケースに当てはめ、ストレス反応を測定する実験が大学生を対象に行われました。
- 未練型コーピング:失恋相手との別れを後悔する
- 拒絶型コーピング:失恋相手を憎んだり、意図的に忘れようとする
- 回避型コーピング:失恋に対する肯定的解釈、別の恋愛対象への置き換え、気晴らしなど
その結果、「未練型コーピング」「拒絶型コーピング」は、相手をネガティブな存在として意識するあまり、かえってストレス反応を高め、回復を遅らせる傾向にありました。逆に、「回避型コーピング」は失恋を肯定的に解釈し、ストレス反応を起こしにくいため有効であるとの結果が示されました。
恋愛していた時間をポジティブに受け入れることで今後の人生に希望を持てるようになる上、新しい恋愛を始めることで失恋による喪失を埋めることができます。また、気晴らしによって思考を発散させ、失恋からの立ち直りを促進します。
こういった回避型コーピングは失恋コーピングとも呼ばれ、失恋の痛手をより早く回復させることができる有効的な手法なのです。
別れにより心のバランスを崩さないために

離婚や失恋以外にも、引っ越しによる友人知人との別れなども大きなストレスとなります。慣れ親しんだ存在との別れは、思った以上に精神的ダメージとなるのです。
また、それが突然やってくる場合は強いネガティブ記憶として残り、トラウマになるおそれもあります。
別れによるストレスのうち、喪失感により心のバランスを崩すケースが多いです。前出の通り、当たり前と思っていたものが当たり前ではなくなったとき、心にぽっかり穴が開くような寂しさを覚えるのです。
それを少しでも軽減させるためにも、日頃から感謝の気持ちをもつことが大切です。夫(妻)、親、恋人、友人……普段何気なく接している人たちに感謝の気持ちをもつことで「当たり前」という感覚を薄め、大事な存在であるという認識を強めるのです。
人間は慣れる生き物です。
慣れはパフォーマンスや魅力の向上につながる重要な要素のひとつですが、状況の変化に対応しづらくなり、注意力が散漫になるという側面もあります。
感謝の気持ちを持つことは今からでも始められます。そばにいる人に感謝し、思いやりを持つことがメンタルヘルスの維持には必要不可欠なのではないでしょうか。
Source:
P J Clayton
【Bereavement 】 American Foundation for Suicide Prevention, New York, NY, USA © 2007 Elsevier Inc. All rights reserved.
加藤 司 (日本学術振興会 特別研究員)
【失恋ストレスコー ビングと精神的健康との関連性の検証】社会心理学研究 第20巻 第3号 2005年、171-180
河野 友信
【死別ストレスと健康障害】
シンポジウム:ターミナルケアと心身医学 第33回 日本心身医学会総会 1992年5月6日/於札幌 Shinshin−lgaku 33:35−38 1993
塚脇 涼太
【失恋ストレスコーピングがストレス反応と回復期間に及ぼす影響 --失恋のタイプに着目して--】心理相談センター紀要 第10号 2014