近年、海外に移住する日本人が多くなりました。
外務省によると、海外に永住、または長期滞在する人は10年前に比べて約24%増えていることがわかっています。日本企業の海外進出が増えたことや成果型のワークスタイル、休日取得のしやすさへの憧れなど、理由は様々です。
しかし、中には海外生活に不安やストレスを感じ、ホームシックにかかったり精神的にバランスを崩してしまう人、はたまたうつ病を発症する人もいます。
慣れない土地でストレスを抱えないためには、いったいどうしたらいいのでしょう?
目次
仕事で海外赴任…不安なあなたが準備すべきことは3つ!

厚生労働省は、主なストレッサー(=ストレスを引き起こすとされるもの)として社会的要因を挙げ、その内容を以下の4つに分類しています。
・人間関係
・近親者との離別、死別
・仕事上のトラブル
・引っ越しなどの環境変化
人間関係や親しい人との別れ、仕事上のトラブルなどは比較的ストレスを自覚することができますが、環境変化については無意識のうちにストレスを蓄積してしまうおそれがあります。困ったときに頼れる人がいない場合、精神的に追い込まれてメンタルヘルスのバランスを崩してしまいかねません。
想定されるリスクを考え、あらかじめ不安要素を取り除いておくことでストレスを軽減させることができます。ここでは、最低限準備しておきたい項目を3つご紹介します。
準備1.渡航先の情報収集

今やネットやSNSなどで簡単に情報が手に入れられる時代です。そういった情報網を利用し、これから自分が暮らす場所がどういうところなのかをリサーチするといいでしょう。
・最寄駅
・会社や学校までの道順
・スーパーや飲食店の位置
・現地の文化
・昼と夜での治安の違い
・天気や気温
生活をする上での基本的な情報を知っておくことで態勢を整え、ストレスを回避するのです。
準備2.言語の取得

海外生活において、言語はもっともストレスを抱えやすい原因のひとつです。
今や様々な翻訳サービスやソフトが登場していますが、円滑なコミュニケーションを図る上で、自分自身で言語を扱えるに越したことはありません。
渡航前に完璧にマスターしておく必要はないので焦らないでください。現地に行ってからでも勉強はできるので、挨拶や買い物ができる程度の決まり文句は頭に入れておくといいでしょう。
翻訳アプリや辞書は肌身離さず持ち歩き、空いた時間で単語だけでも習得しておくとコミュニケーションの幅が広がります。また、ジェスチャーも加えると伝わり方が増すので、困った時には身振り手振りを交えてコミュニケーションをとるのも有効です。
準備3.金銭面の蓄えをつくっておく

ハプニングやアクシデントを含め、急な出費が必要になった時のために金銭面の蓄えをつくっておきましょう。
慣れない環境でストレスがかかれば体調を崩しやすくなることもあります。もしそうなった時、治療費や薬代にお金は必要ですし、現地の物価が高ければより負担も大きくなります。また、万が一の状況に備えて、蓄えの中には往復分の渡航費も含まれているとより安心です。
金銭的な余裕をつくっておくことが、心の余裕をつくることにもつながるのです。
滞在開始後1年間はうつ病発症のリスクが高い

1〜2ヶ月の滞在ならまだしも、1年を越えるような滞在についてはより心のケアが大切になってきます。
青年海外協力隊員の隊員895名を対象にした調査によると、うつ病などを含むストレス関連疾患が全傷病の約1割を占めました。
中でも、海外で活動してから1年未満の隊員の精神的ストレスの割合が高く、原因としては「仕事面でのサポート欠如」や「生活における満足度の低さ」だったという報告があります。環境整備が十分でない地域に身を置くことが多い彼(彼女)らにとって、精神的な負担が多いのが実情です。
また、心身の不調が現れるのは海外渡航後半年以内が多く、1年を過ぎると大幅に減っていることがわかりました。そのため、半年前後の時期に心のケアをすることが大切と言えるでしょう。
慣れることでストレスを軽減させる

海外生活が1年を越えると心身への負担が減る要因として「慣れ」が考えられます。環境に順応することで免疫ができ、対応力や適応能力が上がるのです。
これは、長期間海外生活を送っている人へのインタビュー調査における事例です。
不動産会社に勤務していた日本人女性は、仕事に自信がないまま中国に転勤になり、安いアパートでの不慣れな暮らしや環境にストレスを抱えていました。そんな質素な暮らしを続けていくうち次第に環境に慣れ、生活が苦に思わなくなっていきました。また、結婚が決まった相手は中国人で、彼女自身、中国人化しているという意識すら芽生えたのです。
長く暮らしていれば様々な困難を経験し、課題に直面することでしょう。しかし、その都度乗り越えていくことで解決方法を学び、知見を得ることで心に余裕が生まれるのです。
また、変化しなかった部分はアイデンティティとなり、個性や自信にもつながります。海外生活を通して新たな自分を発見し、視野を広げていくことで、より大きな成長ができるのではないでしょうか。
準備こそがメンタルケアのカギ

このように、物理的な準備に加え心の準備をしておくことは極めて大切です。
どういうハプニングが予想されるか、そのハプニングにどんな対応をするのか、考えうる想定はできるだけしておくといいでしょう。準備すれば準備した分だけ、不安やネガティブ思考は軽減されるはずです。
また、ストレスを解消するための手段をもっておくことも大切です。自分一人でできるストレス解消法があれば、過度なストレスによる二次被害を防げるかもしれません。以下、簡単にできるエクササイズがあるので、よかったら参考にしてみてください。
その他、スマホアプリでメンタルケアをする方法もあります。アプリ上のAIロボと会話をしながら日々の記録を残し、ストレスを客観的に把握することができます。使い続けることでロボがユーザーを知っていき、より的確なアドバイスを受けることができるのです。
慣れない環境で話し相手のいないときなど、ロボとの会話がきっとリフレッシュになるはずです。ぜひ一度試してみてください。
→SELF MIND
文化や価値観、環境の違いを克服し、海外生活でステップアップを図るためにも、メンタルヘルスケアは重要事項です。
これから海外へ渡ろうと考えている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
Source:
田中真奈美
【海外生活がアイデンティティに与える影響 】(東京未来大学研究紀要 2008年 1巻 p. 89-99)
加藤章子、土井由利子、筒井末春、牧野真理子
「青年海外協力隊員の職業性ストレス」(産業衛生学雑誌 2004年 46巻6号 p.191-200)
阿部康久(九州大学)、神谷浩夫(金沢大学)、中澤高志(明治大学)、鍬塚賢太郎(龍谷大学)、由井義通 (広島大学)
「海外居住歴からみる上海在住現地採用日本人の現地適応状況」(人文地理学会大会 2013年 p.118-119)
勝山博信(三菱重工神戸造船所衛生課)、仲野永里子 (三菱重工神戸造船所衛生課) 、佐々木順子(三菱神戸病院内科、心療内科)、土屋五郎(三菱神戸病院内科、心療内科)
「海外出張者のメンタルヘルスケアの問題点」(心身医学 1993年 33巻6号 p.527-)