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世の中にはたくさんの種類のダンスがあり、中学校においてはダンスが必修科目となっています。日本のポールルームダンス連盟によると、ダンスを以下のように定義しています。
ダンスは、本質的に生命に内在するものであり、生命活動を再生し、活性化する根源的な営みである。
引用:日本ボールルームダンス連盟 人間とダンス
感情や精神を表現するダンスは、心と体を一体としてとらえるといった目的もあり、心身の健康に効果的と言われています。そこで今回は、ダンスがメンタルヘルスに与える影響についてご紹介します。
目次
ダンスによる主な心理的効果
未経験者にとってはややハードルが高いと思われがちなダンスですが、リズムに乗って体を動かすと楽しさが生まれるため、メンタルの改善には最適と言えます。
ダンスによってもたらされる効果としては主に4つです。
効果1.ドーパミンやセロトニンの分泌を促す
北海道で毎年開催される「YOSAKOIソーラン祭り」とメンタルヘルスについて興味深い研究があります。
チームの顔合わせから1ヶ月後、メンバーは通常より高いレベルの活気を得ることが研究により判明しています。1つの曲を何度も繰り返し練習し、本番前になると活気もピークを迎え、ドーパミンやセロトニンが分泌されます。これらは多幸感をもたらす神経伝達物質で、うつ病や不安感の改善にも効果があると言われています。
また、YOSAKOIソーラン祭りには年齢も職業もバラバラな人が集まります。異なる価値観のメンバーと一丸となって目標に向かっていく中で、成功や失敗などいろいろなことを経験します。その経験すべてが自身の糧となり、社会的ストレスに対する耐性を高めたり、ポジティブな思い出として自分を支える自信となるのです。
効果2.脳内で海馬が増えてアンチエイジング効果
ダンスをすることで海馬の働きが向上することが研究によりわかっています。
海馬は記憶や学習能力を司る器官で、認知症(アルツハイマー病)において最初に病変する部位です。海馬は、脳内ホルモンのひとつであるβエンドルフィンが分泌されることで増大・向上するのですが、このβエンドルフィンの分泌を促しやすいのがダンスと言われています。
ダンスをすることで記憶力や学習能力の衰えを防ぎ、脳を若く保つことができるのです。
効果3.平衡感覚が改善
ドイツのカトリン・レーフェルトという博士が、エクササイズの内容によって身体能力の改善に違いがあるのかという実験を行なっています。
被験者を「ダンスをするグループ」と「持久力運動をするグループ」に分け、1年半に渡ってそれぞれのエクササイズを行ったところ、ダンスのグループでは、体のバランスを保つ平衡能力が改善したという報告があります。
ダンス体験者にとっては、限られた時間内で振り付けを覚え、それを思い出して実行しなくてはいけないという状況が脳の活性化をうながし、平衡感覚の改善につながったと考えられています。
効果4.自己肯定感を高める
また、ダンスを通じて自信をつけることで自己肯定感を高めることもできます。
自己表現とも言えるダンスは、動きや振り付け、表情など様々な要素を総合して表現します。鏡の前で練習を繰り返すことで自身を見つめ、どの角度が美しく見えるか、どんな表情が魅力的か、どう動いたら観客の目を引くかといったように、自分をよく見せるための考える癖がついていくのです。
さらに、ダンスにはコンテストや大会といったお披露目の場があります。そういった場はいわば自分をさらけ出す場でもあるため、周りに見られるという緊張感や、落選した際の悔しさを味わうこととなります。そういった経験を繰り返すことでメンタルが鍛えられ、達成感を得ることができるのです。
ダンスムーブメントセラピー(DMT)の健康効果
近年、ダンスは病院においてダンスムーブメントセラピーと呼ばれるセラピーの一種としても活用されています。
ダンスムーブメントセラピー:「個人の感情的、社会的、認知的、身体的統合を促進する一過程としてムーブメントを心理療法的に用いることである」
ダンス・セラピー協会(アメリカ)
ダンスムーブメントセラピーは、一般的な芸術としての「魅せるダンス」ではなく、あくまで心理療法としての手法です。芸術性を一切取り払い、その人の内側から出る感情や衝動をダンスとして体の外側に発散させるのです。
ダンスムーブメントセラピーでは、気持ちのままに踊る姿こそ美しく、かけがえのないものだという考え方が根底にあるため、全ての人に適用できるセラピーなのです。
ダンスを始めるのに遅すぎるということはない
ダンスによる感情の変化について、色彩の切り口から研究した事例があります。
ある大学でダンスセラピーワークショップを実施し、ダンスをする前と後に「今の気分を色で表すと?」という質問で気分変化を測定したところ、ダンス前には無彩色だったのがダンス後には鮮やかな色を記述する割合が増えました。
無彩色は抽象的な連想、有彩色は具体的な連想に結びつきやすいとされており、ダンスを通じて思考が整理され、モヤモヤしていたものを浮き彫りにする効果があると考えられます。
また、10代や20代はもちろん、女性ホルモンの一つであるエストロゲンが欠乏しがちな中高年女性のメンタルヘルスの維持にも、ダンスムーブメントセラピーは効果的です。
中高年の女性を対象にしたストレスケアの研究では、女性たちを
「特に運動しない」
「歩く運動をする」
「ダンスムーブメントセラピー(DMT)を行う」
という3つのグループに分けてストレスを比較をしたところ、DMTを行ったグループは他の2グループより短期的なメンタルヘルスの改善が見られました。
ちなみに、歩く運動をするグループはDMTを行うグループと運動強度を同じにしており、メンタルヘルスの改善には運動強度のみが関わっている訳ではないという興味深い結果が得られています。
楽しむことがメンタルの健康には大切
このように、同じ運動というくくりで言えば、ダンスはウォーキングやスポーツとは違う効果を得られると言えます。
感情表現やダンスならではの楽しさなど、他の運動とは一味違う楽しみが我々の健康を作ってくれるのではないでしょうか。
また、今はスマホアプリでメンタルケアができる時代です。アプリ上のAIロボと会話をしながら日々の記録を残し、ストレスを客観的に把握することができます。使い続けることでロボがユーザーを知っていき、より的確なアドバイスを受けることができるのです。
カウンセリング機能やストレス解消法の提案をしてくれる以外に、ロボとの何気ない会話だけでも気分転換になるので、ダンスに抵抗のある人もぜひ試してみてください。
→SELF MIND
Source:
侘美 靖、森谷 きよし
【YOSAKOI ソーラン祭り参加による感情とメンタルヘルスの改善】(日本生気象学会雑誌 2006 年 43 巻 4 号 p. 117-129)
八木 ありさ
【大学生を対象としたダンス・セラピーワークショップの効果検証における「気分調べ」と「色名記述」の有効性】(日本女子体育連盟学術研究 2014 年 30 巻 p. 17-28)
渡辺明日香
【閉経後中高年女性における集団ダンス・ムーブメントセラピーのストレスケア効果に関する研究― メンタルヘルスの改善とストレス関連ホルモンの変化―】(北海道大学大学院教育学研究科紀要 2006年 99巻 p.101-111)
廣瀬 優希
【ダンス / ムーブメントセラピーを心理臨床の立場から検討する】