よく、読書は心の栄養という言葉を耳にします。

読書をすることで創造力が磨かれ、知識や教養が得られるのは言うまでもないでしょう。しかし、本を読むのは時間がかかる上、途中で離脱してしまうという人もいるのではないでしょうか。

そこでおすすめしたいのが「詩の黙読」です。

心理療法にも使われている詩

リーブスという詩人は、詩は感じられる思想であり、感覚による認識であると言っています。

読者の感性を揺さぶるような詩は、それまでの認知的世界を変容させる影響力があり、読者はもちろん作家側にも心理的なメリットがあるのです。

また、ある詩歌療法の研究者によると、心理療法において詩を処方する際、はじめは物憂げで悲しい雰囲気がありながら、終わりに向かって希望とオプティミズム(楽観主義)が感じられるような詩がいいとされています。

こういった詩を読み、覚え、引用することで人は「こんな状態なのは自分だけではない」と思え、そういった他人の回復を見ることが治療効果にもつながるのです。

詩を読むことのによるメンタル効果とは

効果1.想像力・表現力が磨かれる

夜の木の下で本を読んでいる男性
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小説をはじめ物語を読む際には、書かれている部分と書かれていない「行間」を想像します。詩は短いため、より想像する余白があります。ここで、相田みつをの「にんげんだもの」を見てみましょう。

  • 【つまずいたって いいじゃないか にんげんだもの みつを】

一見、特別なことは言っていないようにも感じますが、多くを語らない詩だからこそ、想像を膨らませる楽しさがあります。筆者的には「本質的な人間の弱さ」「失敗を受け入れる心」といったようなメッセージを感じたりしますが、他にも様々な受け取り方があるでしょう。何を感じるかは人それぞれです。

また、詩は文字情報から情景や心理を思い浮かべたり考えを巡らせたりするので、想像力の鍛錬になります。企画を考えたりアイデアを練るといった作業は、能動的に働く上で大事な能力なので、詩を読んで想像力を磨くのは効果的と言えるでしょう。

一方、読者としてだけでなく、詩を書いてみるのもおすすめです。

詩は端的な言葉で様々な情景を想起させる必要があるため、書き手には叙情的かつ多角的な表現力が求められます。そのためには、多くの価値観や経験、感受性などが備わっていなければなりません。詩を読むだけでなく、詩を書くこともメンタル改善の一手になりうるのです。

効果2.他人の心理を理解することができる

肩を組んで歩いていく女の子たち
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日本の大学生274名を対象にした研究だと、読書をして感情移入することで、心理的にポジティブな効果があるという結果が出ています。

感情移入尺度を図る上でアンケートをとったところ、「落ち込んだとき関係のある本を読む」「登場人物の生き方や考え方に共感した」などの学生において、「人の気持ちや微妙な表情の変化を読み取るのが上手」「自分の性格についてよく理解している」といった項目に強い関連性があることがわかったのです。

社会生活を送る中で、周りに馴染むことができず孤独感を感じ、「自分はひとりだ」という感覚を持つ人は少なくありません。しかし、そのような状況であっても、感情移入を伴う読書をしている人は他者心理の理解が高く、他人を理解しようとしている傾向が見られるのです。

効果3.くつろいだ気分になれる「気分一致効果」

コーヒーカップを持って読書している人
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ある大学の研究では、「詩の黙読・朗読は、メンタルに良い影響を与える」という結果が出ています。

また、ポジティブな内容の詩を黙読することでゆったりとくつろいだメンタルになれると言われており、これは、肯定的な詩を読むことで自分自身も肯定的な気分になる「気分一致効果」が得られると考えられているのです。

反対に、ネガティブな内容の詩を読んでしまうと、自分もネガティブな気持ちになりやすいというデータもあります。そのため、気分を落ち着かせるために詩を読もうと考えている人は、詩の内容やテーマをあらかじめ把握した上で読み始めるようにした方が良いでしょう。

効果4.気晴らし効果

海辺で寝ながら読書している人
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詩を読むことで想像を膨らませ、雑念から詩へと集中力を向けることができます。これにより、悩んでいることがあっても一時的にその悩みから離れられるため、気晴らしやリフレッシュができるのです。

気晴らしをするために重要になるのが、今の暗い気持ちを別の気持ちで蓋ができるかどうかという観点です。そのため、詩で気晴らしをしようとする場合は、ポジティブな内容の詩であるかどうかが重要になります。

初めての人におすすめの詩人3選

詩の見開きページ
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ひとえに詩と言ってもたくさんあるため、どういった詩を読めばいいのかわかりませんよね。そこで、初めての人でも特に読みやすいおすすめの詩人を3名紹介します。

1.俵万智(たわら まち)

▼この詩人をおすすめする人:物語のような詩を読んでみたい人

俵万智の作品である「サラダ記念日」は、現代短歌の最大ベストセラーになったこともあり、多くの人に親しまれています。

日常的に使われている口語表現を用いて紡がれる詩からは、作者の目から見える日常に隠れた美しさだけでなく、その状況の背景の想像など、様々な楽しみ方が可能です。

2.谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)

▼この詩人をおすすめする人:色々なジャンルの詩を読んでみたい人

谷川俊太郎は、詩人の中ではもっとも知名度があるといっても過言ではありません。

谷川俊太郎の詩は、ほのぼのした作品やリズミカルな作品の他、生き方を考えさせられるような深みのあるものまで様々です。多彩なジャンルで型にはまらないスタイルは、変幻自在の詩人と言えるでしょう。

また、詩だけでなく絵本小説の執筆もしているため、谷川俊太郎の世界観に触れる機会は多いのではないでしょうか。

3.八木重吉(やぎ じゅうきち)

▼この詩人をおすすめする人:短めの詩をたくさん読んでみたい人

八木重吉の詩の特徴は、「ひらがなが多用されていること」「10行未満の短い詩が多いこと」「自然や家族を謳った詩が多いこと」が挙げられます。

先述したような、メンタルに良い影響をもたらすポジティブな詩が多く書かれている点がおすすめするポイントになります。ちなみに、2021年時点で詩集は二冊のみしか刊行されていません。

好みの詩集で健康的なメンタルを

テーブルにオアkれている詩とコーヒー
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詩を日常的に読んでいる人はおそらくそう多くないのではないでしょうか。

それは、詩が身近な存在ではないということと、そのせいで詩の良さが伝わっていないという理由が考えられます。

ここまで解説したように、詩を読むことで得られるメリットは多く、何よりメンタルヘルスの維持・改善に有効であることは明白です。今からでも気軽に手にとってみるといいかもしれません。

また、今はスマホアプリでメンタルケアができる時代です。
アプリ上のAIロボと会話をすることで日々の健康状態が記録され、ロボがユーザーのことを覚えていきます。続ければ続けるほど的確なアドバイスやストレス解消法を提案してくれるので、会話するだけでストレスの軽減が期待できます。

詩を読むことに加え、こういったものを活用するのもより良い生活を送るための手助けとなるのではないでしょうか。
SELF MIND

Source:

森田晴香,菅村玄二
「詩の黙読が感情状態と気晴らしに与える効果」

佐田吉隆
「朗読による精神面での積極的休息が知覚―運動学習に及ぼす効果」

青柳ゆきの、上長 然
「読書は大学生の「心理的サポート」となるか」

著者情報

SELF

北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手掛けている。

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