あなたが最後に涙を流したのはいつですか?
生まれたばかりの赤ちゃんは、お腹がすいた時、疲れた時、知らない人が近づいてきた時など、ストレスを感じた途端に、誰に気兼ねすることもなく泣きじゃくります。これは、赤ちゃんにとって泣くことが、自分の感情を表現するための数少ない手段であり、感じたストレスを解消するための対処であるからと考えられています。
しかし、人は成長に伴って涙を流す機会が少なくなってしまいます。
「泣くことは恥ずかしいこと」
「大人はそう簡単に泣いてはいけない」
いつの間にか、そんな風に思い込んでしまっている人が多いのではないでしょうか。
私たちは大人になるにつれて、人生で最初に獲得したはずの「泣く」という非常に効果的なストレス解消法を、自ら抑制してしまっているのかもしれません。
近年、この「涙を流す」ということのストレス解消効果が注目を浴びているのです。
目次
どんな「涙」がストレスに効果的?
一口に「涙」といっても、人の流す涙にはいくつかの種類があります。
ひとつは基礎分泌の涙。眼が乾かないように、体内から常に微量分泌されている涙です。
次に反応性の涙。眼にゴミが入ったときや玉ねぎを切ったときなど、眼に何らかの刺激が加わることによって分泌される涙です。
最後に情動性の涙。ストレス解消に効果的とされるのはこの涙です。
泣くことがストレス解消に効果的だからと言って、玉ねぎを切って流れる反応性の涙にはストレス緩和の効果はありませんので注意しましょう。
情動性の涙を流すには、感動的な映画やドラマを見たり、誰かの悲しい経験に共感するのが良いでしょう。また、自分の経験を誰かに話して共感してもらうというのも感動的な体験です。悩みの解決に直結するようなアドバイスが得られなくとも、自分の気持ちに対して「わかるよ」「つらかったね」と言葉をかけてもらうだけで、喜びと安心感から涙があふれてくるかもしれません。
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「涙」と自律神経の関係
情動性の涙は感動的な映画を見たときなど、人の心が揺り動かされた際に、涙腺から大量に分泌される涙のことです。
人の自律神経には交感神経と副交感神経があり、一般的に交感神経優位の状態は緊張やストレスを促すとされ、逆に副交感神経優位の状態となることで脳がリラックスできると言われています。
涙が流れるという反応は、「悲しい」や「悔しい」、また「感動」といった心に感じる刺激(=ストレス)から誘発されますが、涙を流すことによって交感神経の緊張が緩和され、一気に副交感神経優位の状態となることがわかっています。
一般的なストレスへの対処としては、休息を取り心身をリラックスした状態に導くことで、徐々に副交感神経優位の状態にすることが重要とされています。そのためには、瞑想などでじっくりと自分と向き合う時間をとったり、アロマテラピーなどを用いて緩やかに自律神経の状態を切り替えていく必要があります。
しかし、「涙を流す」という行為は自律神経を一気に交感神経優位から副交感神経優位の状態に切り替えることができるので、心が抱えているストレスを一瞬でリセットする効果が期待できるとされています。
積極的に涙を流す「涙活」とは
近年、泣くことのストレス解消効果に注目が集まったことで、日本ではストレスケアの一環として能動的に涙を流す「涙活」という活動が生まれました。日々様々なストレスにさらされている人々が一堂に集い、泣ける動画を見たり、お互いの悲しいエピソードを語り合ったりする「涙活イベント」も、各地で催されています。
とはいえ、いきなりイベントなどに参加して、見ず知らずの人の前で涙を流すことには、抵抗があるという人も多いでしょう。そんな人は、無理にイベントに参加をする必要はありません。重要なのは思いきり涙を流すということなので、自宅でひっそり、誰にも知られることなく涙を流すことも、立派な「涙活」と言えます。
ここで、効果的に「涙活」をするためのポイントを紹介します。
自分以外の誰かの経験に「感動」して涙を流す
「涙活」をする際は、悲しみや怒りなど、自分自身のネガティブな感情を使って泣くよりも、映画やドラマの登場人物など、他者の経験に感動して泣くことが効果的とされています。自分自身と直接関係のない物事は、自分が問題解決のための努力をする必要がないため、心おきなく涙を流したあとは、よりスッキリと爽快な気分になれるのではないでしょうか。
自分の「泣き」のツボを知る
普段、涙を流す機会が少ない人は、世間一般で「泣ける」と言われている動画を見たところで、なかなか泣けない場合もあります。 一口に「感動」と言っても、世の中には様々な趣味嗜好があり、スポーツの試合で感動しやすい人もいれば、動物や子供のいたいけな姿に感動しやすい人もいます。自分はどんなことに感動し、自然と涙が流れるのかを事前に把握して、自分の「泣きのツボ」を押さえることで、効率よく涙を流すことができるでしょう。
泣くことに集中できる環境を整える
人前で泣くことに慣れていない人は、自宅でひとりのときに涙を流すなど、自分が心おきなく涙を流せる環境を整えましょう。ティッシュやタオルの用意はもちろんながら、よりリラックスできるよう抱きしめるためのクッションやぬいぐるみなどがあってもいいかもしれません。また、カラダが疲れて眠たいときなどは、映画やドラマを観たりしてもなかなか集中できず、感動しづらいかもしれません。涙活をする際は、泣くことに集中できる環境と自分自身のコンディションを整えましょう。

涙でストレスを洗い流そう
現代人は、複雑な人間関係や社会不安などから、日々多くのストレスを受け続けています。
過大なストレスにさらされながら、そのストレスを解消するすべを持たなければ、いずれ蓄積されたストレスが「うつ病」などの深刻な精神疾患を引き起こしてしまう恐れもあります。
時には思いのままに泣きじゃくっていた幼いころに立ち返り、積極的に涙を流してみてはいかがでしょう。
Image:Unsplash
Source:「涙とストレス緩和」(有田 秀穂 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)129,99~103 2007)

AUTHOR
SELF
北里大学医療衛生学部出身の医療系ライターを筆頭に、精神衛生やメンタルケアに特化した記事を得意とする。学術論文に基づいた記事を多く手がけている。