ベテランほど要注意。交通事故を引き起こす「怒り」の感情

夕焼けハイウェイ

今、交通事故が原因で命を落とす人が、世界に年間何人いるかご存じでしょうか?

WHO(世界保健機関)によると、2016年に交通事故で亡くなった人は世界で年間約135万人に達しています。言い換えると、およそ24秒に1人が交通事故死していることになります。 これはHIVや結核を上回る死者数で、世界における死因の第8位だそうです。5~29歳の子どもや若者世代に限れば、交通事故死は死因第1位です。

後を絶たない交通事故。

いくつかある原因のうち、運転中の「怒り」や「イライラ」などの心理状態も大きな要因のひとつとなっているようです。

地域によって違う交通事故の原因

WHOの発表では、交通事故死者数が増える一方で、人口や車の台数の増加に対する死亡率はそれほど変わっていないようです。また、低所得国で交通事故死者数が減少した国は皆無で、高所得国より死亡リスクは3倍も高かったという結果も出ています。

低所得国や貧困地域では、歩道や自転車レーンなどのインフラが整っていなかったり、飲酒運転やスピード違反などの交通安全リスクに関する法律が不十分だったり、自動車の保安基準が緩かったりと交通事故要因は様々です。

一方、日本ではどうでしょうか。

図1の黄色で示した「第一次交通戦争」とは、自動車数や免許保持者、そして道路交通整備に伴い走行距離が急激に伸びた時期であり、信号機や歩道などの交通安全設備が追いつかずに自動車事故や歩行者衝突事故が多かったと言われています。「第二次交通戦争」は、第二次ベビーブーム(昭和46年~49年生まれ)が運転免許取得年齢に達し、運転技能が十分ではない若者の運転者が急増したため、自動車乗車中の死者が多かったそうです。

その後、交通インフラについては整備が進み、道路や自動車そのものが原因で発生する交通事故はごくわずかとなっている日本では、道路交通法が厳罰化された影響もあり、近年は大幅に自動車事故が減っています。

とはいえ、交通事故が起こっていることには変わりありません。
今、日本における事故の8割は「ドライバー」に起因していると言われています。居眠り運転や飲酒運転、また最近では高齢者ドライバーによる運転操作ミスも問題になっていますが、そんな数ある「ヒューマンエラー」の中でも、人の感情が交通事故に関与していることがわかっています。

感情が極端化することによって、ドライバーは危険な運転態度に陥り、それがある種の思い込みを生じさせたり、人間が持っている自動車の操作能力の限界を超えさせてしまうために交通事故が起こると考えられているのです。

運転中に怒るドライバーたち

どういう状況で怒るのか?

中でも多いのが「怒り」の感情です。

ドライバーにとって、怒りを覚える瞬間は大きく分けて4つあるそうです。

「運転妨害因子」(信号がなかなか青に変わらない、交通渋滞で車がなかなか前に進まない等)
「交通違反因子」(道路標識を守らない車を見たとき、信号無視をしている車を見たとき等)
「交通マナー因子」(隣の車線からむりやり車が割り込んできたとき、後ろからクラクションを鳴らされたとき等)
「危険状況因子」(正面衝突しそうになったとき、自分の車の前に急に子どもが飛び出してきたとき等)

この4つの感情因子を、年齢別に見てみましょう。(図2)

ドライバーの怒りの尺度表

これを見ると、20歳代の若手ドライバーにおいて怒り得点が他の年代より低いことがわかります。 そして、年齢が上がるにつれて 「運転妨害」「交通違反」「運転マナー」「危険状況」すべての因子において高くなっていきます。これは一見、高齢になると怒りやすくなる傾向にあるとも見れます。たしかに、運転歴が長いドライバーは怒りやすい傾向にあることがわかっているのですが(後述)、一概にそうとも言い切れません。

たとえば「交通違反」と「危険状況」という場面は、 社会規範を逸脱するような法に触れる行為を行ったドライバーを目撃した、あるいは遭遇した時に生じる怒り喚起場面です。そんな状況において、若者に怒りの感情が見えづらいということは、社会規範を逸脱した法に触れる行為を行っているドライバーを目撃しても、大して気に留めない若手ドライバーが一定数いると考察できます。

そうした運転マナーの欠如したドライバーが増加することで、他のドライバーの怒りを生むという負の連鎖が起きてしまうことも懸念されているのです。

交通事故要因を減らすためにも、今後はこの4つの感情因子からなるドライバーの怒りを多面的に捉えていくことが必要であると言えるでしょう。

怒りやすい傾向にあるベテランドライバー

運転する高齢女性ドライバー

先ほども少し述べた通り、 ベテランのドライバーほど運転中に怒りやすくなる傾向が見られるそうです。

運転妨害をされたときや、交通違反・マナー違反をしている車と出会ったときなど、運転歴の長いドライバーほど怒りの感情が顕著に表れることがわかりました。もしかすると、長年運転しているからこその運転への自信も大きいのかもしれません。その自信が過信を引き起こし、独りよがりになって周りが見えなくなるというケースも考えられるでしょう。

他にも、加齢に伴う心身の変化や職場や家庭における環境の変化、運転能力自体の衰えなどもあるかもしれませんが、ベテランドライバーに対する心のケアや教育訓練は必要になってくるのではないでしょうか。

また、今まで1度も交通事故を起こしたことのないドライバーも運転中に怒りやすい傾向にあるそうです。おそらくそれは、交通事故を起こしたくないという意識が必要以上に高く、事故になりかねない状況に遭遇したり、そういった状況を目撃してしまうと、怒り感情が高まるものと考えられます。

さらに、運転中に疲れを感じているドライバーほど怒りやすいようで、運転中のストレスは、ドライバーに生じる怒り感情を高める大きな要因になっていると言われています。

セルフコントロールとリスク回避を

人の怒りは6秒でピークを過ぎると言われています。

脳科学的に、怒りの発生から理性の発動までには6秒程度のズレがあるそうで、感情的になりやすい6秒間は言動をコントロールしなければなりません。

このような、怒りの感情と上手に付き合う「アンガーマネジメント」という手法は、感情抑制のための訓練として世界中で注目されています。 アンガーマネジメントの一例として、もし運転中に怒りやストレスを感じたら、

・深呼吸をする
・簡単な計算をやってみる(例:100から3を引いていく)
・怒りを点数化する(客観視して数値化することで冷静さを取り戻す)

などして心を落ち着かせ、うまく6秒を乗り越えることがカギになります。

また、そもそも怒りの感情にならないようにあらかじめリスクを想定しておくことが、ドライバーにとっては大切になってくるのではないでしょうか。運転中にどういうリスクがあるかをシミュレーションし、何が正しい行動なのかしっかりと理解することも必須事項と言えるでしょう。

イギリスでは、運転者教育の一環としてハザード知覚(ドライバーの認知的技能の一つで、事故と結びつくような対象や事象、環境条件を探索して予期する情報処理過程)のテストを実施してるそうです。また、スウェーデンでは自己評価の低減を目標とする走行実技訓練をしたり、フィンランドでは個別指導によるフィードバックを重視した運転者教育、および運転免許試験制度を実施しているようです。

運転中において感じるストレスを低減させることは、交通事故の原因にもなりかねないドライバーの怒り感情を低減させるためにも極めて重要なのです。

交通事故の原因となりうる「ドライバー」にならないためにも、日頃からアンガーマネジメントを意識し、安全運転を心がけていきたいものですね。


Image:Unsplash
Source:
【ドライバーの怒り感情とその対処行動に関する研究】
(岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 第13号 253-263,2014)
藤井義久

【運転時のリスクテイキング行動の心理的過程と リスク回避行動へのアプローチ】
蓮花一己

【保健体育科へのアンガーマネジメントの導入意義を探る ── わが国の学校教育におけるアンガーマネジメントに関する研究動向から ──
霜触智紀・木山慶子

【リスク知覚とハザード知覚】(大阪大学人間科学部紀要. 19 P.27-P.40)
小川和久