トラウマって何?トラウマを克服するために大切なこと

トラウマを抱える男

「小さい頃に犬に吠えられて以来、犬がこわい」
「高いところから落ちたことがあり、何年経っても高いところが苦手」

このような状態は、一般的に「トラウマ」と呼ばれています。精神的ショックや恐怖を感じることでできる心の傷のことを言い、克服するには一筋縄ではいきません。

誰もが抱く可能性のあるトラウマ。
その正体とはいったい何なのでしょうか。

世界で約7割の人がトラウマを抱えている

トラウマを抱えて外を眺める男の手

24か国を対象に行われた疫学調査によると、生涯のうち1度でもトラウマ体験をする人の割合は70.4%だそうです。それだけトラウマ体験は身近なものだと言えるでしょう。

トラウマ体験をすると、大抵は当時の記憶が蘇ると思います。日常生活のふとした瞬間に過去の有事と似たような体験をすることで、ネガティブな解釈をしたりメンタルのバランスを崩してしまうのです。

とある日本の大学生への調査だと、トラウマやPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの症状やその治療法について、認識自体はあるもののちゃんと学んだことがないという人は対象者全体の9割以上を占めたそうです。おそらく映画やドラマ、漫画などのメディアを通じてトラウマやPTSDなどの存在に触れる機会はあっても、そこから先の、勉強をしたり知見を広めたりといった段階までたどり着く人はわずかであると考えられます。

正しい理解がないために、トラウマ記憶に苦しむ自分を異常だと思いこみ苦しんだり、過去にとらわれていると思い込んで自分自身を責めてしまったりする人も多いようです。

また、本人だけでなく接する側も気をつけなければなりません。
たとえば、トラウマ記憶を持つ人に対して「過去を思い出させるようなことをしてしまったらどうしよう」 という不安がよぎった場合、過去に触れないようにする周囲の態度は、トラウマ体験者に意図せず誤って言動が解釈される可能性があります。その結果、彼らを孤立させてしまう可能性もはらんでいるのです。

そのようなトラウマ体験を抱える人に対する誤った対処法は、外傷性ストレスの維持・悪化に影響すると考えられています。

フラッシュバックの原因の多くは「いじめ」によるもの

自然災害や事故、暴行、虐待など、トラウマを抱くには多くの要因があると思いますが、中でも多いのがいじめです。文部科学省は、いじめを以下のように定義しています。

いじめ:「当該生徒が,一定の人間関係のある者から,心理的・物理的な攻撃を受けたことにより,精神的な苦痛を感じているもの」

引用:文部科学省


子供や学生はもとより、大人にとってもいじめは身近な危機であり、物理的や身体的、心理的ないじめが継続して行われることは心身に大きな影響を及ぼすと言われています。被害者にとってはいじめを受けていると思っていても、加害者側は普通のじゃれ合いやイジリという認識でいることも多く、このズレはいじめ問題の大きな課題と言えます。

いじめによるつらい経験は脳に深く刻まれ、環境や条件によってフラッシュバックとして思い起こされます。いじめは、PTSDにかかわるストレス反応を引き起こす可能性が大いにあるのです。

また、いじめ以外にも、かつて自分が味わったような苦い経験と似たような状況に遭遇したときや、自分以外の誰かが昔の自分と同じような状況に陥っているというような現場を見たときなど、フラッシュバックはふとした瞬間にやってきます。その繰り返しが過去に対する恐怖心をより強めてしまい、当事者本人にとってつらいものになるのです。

そうしたフラッシュバックをなくすためには、

・フラッシュバックしたときの気持ちをメモする
・フラッシュバックが起きやすい状況をメモする
・心を許せる人に話を聞いてもらう
・カウンセリングを受ける

などの対策が必要になってくるそうです。
フラッシュバックの回数を減らし、トラウマについて考える時間を減らすことがトラウマ克服の第一歩なのではないでしょうか。

「考えないようにする」ことが克服ではない?

窓の外を眺める少女

トラウマを抱えている人に対して、 「トラウマ記憶を思い出し、向き合うことが克服・回復につながる」 というような考えがあります。 これは、過去を克服するためや防衛反応のためとも言えるでしょう。

もし、トラウマを思い出して向き合っていくことが過去を乗り越えるための自己鍛錬のようなものと考えているのであれば、思い出さなくなることが克服(=自己鍛錬の成果)というような考えが背後に潜在しているのではないでしょうか。

この推測が正しく、「トラウマ記憶を思い出さなくなれば回復したサイン」 だと認識しているのであれば、そこには誤解が生じます。なぜならそれは、トラウマ記憶を忘れるといいとする考えにつながり、忘れられない自分を責めてしまうというようなトラウマ経験者を増やすことになりかねないからです。

センシティブな問題だけに、対応を誤るとより重症化してしまいかねません。大切なのは、トラウマを抱えた人の言葉に耳を傾けて一緒に乗り越えていこうという「寄り添い」の気持ちなのではないでしょうか。

トラウマやPTSDなど、精神疾患を起こさないために

トラウマ体験は、強いインパクトとして脳や体に刻み込まれ、忘れたくても忘れられずに思い出してしまう人が多いようです。これを克服するのは簡単なことではないかもしれません。

ですが、実際には過去の記憶に振り回されずに生活することは十分可能です。そういった情報を伝え続け、トラウマ記憶の想起に対する理解をうながし、認識や態度を今一度確認するということが大事になってきます。そうやってトラウマ体験者を孤立させずに、安心できる仲間や身近な存在などの「コミュニティ」で支え、安心・安全の回復をはかっていくのです。

トラウマになる原因は人それぞれです。
乗り越えるには認識の相互理解をはかることが重要です。

トラウマによる問題を個人ではなくコミュニティの問題として扱いつつ、日常を取り戻す場をコミュニティ内で提供することは、トラウマ経験者が自らの壁を打ち破るためにも大切なことなのではないでしょうか。


Image:Unsprash
Source:
【トラウマ体験の違いによる外傷後ストレス反応、身体症状、抑うつ症状、不安感受性の差異に関する検討】(不安障害研究,4(1), 10–19, 2013)
瀧井美緒(兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科、新潟県精神保健福祉協会こころのケアセンター)
上田純平(兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科)
冨永良喜(兵庫教育大学)

【いじめ研究の動向 : 定義といじめ対策の視点をめぐって】(茨城大学教育実践研究(32): 163-174)
小林英二、三輪壽二